KAC20243 親父の残した箱は、超危険なものだった。

久遠 れんり

親父の残した箱

「俺が死んだら仕方ない。これを開けろ」


 闘病を続けている親父が、どこからか出してきた箱。

 桐っぽいが、そうめんか何かの箱だろう。

「なんだこれ?」

「今はまだ、だめだ」

 そう言って、親父はまた抱え込む。


 床の間に、置いていたが気にしないことにした。

 そう放置してしまった。


 親父は若い頃浮名を流したそうだが、母が死んだ後。

 この家で一人。静かに暮らしていた。


 歳にしては、パソコンにも精通し、何かを楽しんでいた。


 通販なども使っていたし、ラジオコントロールの車を買って免許の返納した後は楽しんでいた。


 だが、好き勝手してた親父も、病気には勝てず闘病することになった。

「八十五歳だ。酒飲んでたばこを吸ってこの年だ。動けなくなって長生きをする気は無い」

 日頃からそう言っていた。


 ステージ4のガン。

 つまり転移がある。

 薬は飲んでいるが、禁煙は嫌だと言って家にいる。

「やめたら治るのか?」

 そう言われて、医者も口ごもった。


「好きにさせます」

 そう言って、家での闘病。


 だが痛みはある様だが、元気だった。

 倒れて死ぬ三日前まで、酒を飲んでいたし、咥えたばこ。


 納屋の作業場で、なにかをしていると思ったら、草刈り機やチェーンソーのエンジンをばらしていた。

「おれがしなきゃ、他に出来る奴がいないだろ。クラッチのシューも交換したし、ピストンリングも換えた。あと五年はいけるだろ」

 そう言って、笑っていた。


 気が付けば剪定や修理。掃除。

 やり残したことが、ないようにと言う事だろうか?

 水道のパッキンまで、修理されていた。


 そんな親父は、いつのまのか家の廊下から繋がるように人工木のウッドテラスを作り、その上でロッキングチェアに座り、静かに眠るように逝っていた。


 医者を呼んで、診断して貰う。


 そこからは怒濤のように色々な行事が始まる。

 葬儀だけじゃないんだよ。

 書類関係の名義変更から、相続手続き。

 本人死亡の証明から血縁の証明。

 さらに、色んな免許や許可証を持っていたからそこへ連絡。


「疲れた」

「お父さん多趣味だったから」

「この家はとりあえず残すが、今後どうするかな?」

 そう言っていて、ふと思い出す。


 あの、そうめんの箱。

『俺が死んだら仕方ない。これを開けろ』

 含みを持った、あの言い方が気になり出した。

「まさか、まだ証券口座とかじゃないよな」

 ネットの証券口座があって、面倒だった。


 少し緊張をしながら、箱を開ける。

『すべて任せる。良きに計らえ。』


 親父の文字。

 そのメモを取り除くと、『お前の兄弟だ』

 そう書かれた下に、親父が認知した数人の名前。


「あの ――糞親父ぃ」

 どこかで、親父の笑い声が聞こえた気がする。


 それからは、もう……

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KAC20243 親父の残した箱は、超危険なものだった。 久遠 れんり @recmiya

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