鍵のかかった鍵穴のない箱

洞貝 渉

鍵のかかった鍵穴のない箱

 朝が来ると自然と箱が閉じ目が覚め、夜が来ると自然と箱が開いて眠りに落ちる。

 箱の中にはたくさんの種類の夢が満ちていて、どの夢が出てくるのかは完全にランダムだ。

 箱には複数の種類があり、いい夢、悪い夢などざっくりしたものから、海、遊園地、など場所を指定したもの、近未来、幼少期、など時間を指定したものや、楽しい、切ない、など感情を指定したものなどがある。


 そんな箱を、試作する夢を見た。

 箱に詰める夢を集めるため、夢の寄贈を求める情報を広く飛ばすと、たくさんの夢が寄せられてくる。が、どれもこれも悪い夢ばかりだ。

 仕方がないので、悪い夢の箱ばかり制作するが、思いの外欲しがる人が多かった。

 

 単純な好奇心から欲しがる人もいるにはいたが、悪夢でもいいから夢が見られるならば、というか、夢を見ることができるくらいしっかりと睡眠が確保できるようになるのなら、と不眠で悩む多くの人が試作品を欲した。


 これは試作品なので無料で提供しますが、使用後に感想を聞かせてください、と念押ししてから物を渡していたのだが、誰一人としてその後に連絡をしてくるものはいない。不審に思って試作品を提供した人、一人一人を尋ねてみれば、みんな行方不明になっていた。


 残っているのは、お渡しした試供品の箱のみ。

 持ち帰って調べてみるも、ぴったりと閉じた箱はうんともすんとも言わない。

 ふと思いつき、重さをはかってみると、どれもこれも元の重さよりもぴったりと21g重くなっている。


 どうしたものかと頭を捻るが、考えているうちにだんだん思考が空回りし出し、自分が何を考えているのかぼんやりとしてきた。

 そもそも、今まで何をやっていたのかも思い出せなくなってきて、部屋中に積み上がった箱たちがなんだったかも定かではなくなってくる。


 それはそうだ。

 なにせこれは夢なのだから。

 箱に閉じ込められたわたしが抜け出せなくなった、悪い悪い夢の中。

 だけれど、これは本当に悪い夢なのだろうか。

 現実で起こった取り返しのつかない悪いことと比べれば、実体を持たない悪い夢など、何度だってやり直しがきくではないか。


 目の前からサラサラと中身の入った悪い夢の箱が消えていく。



 朝が来ると自然と箱が閉じ目が覚め、夜が来ると自然と箱が開いて眠りに落ちる。

 箱の中にはたくさんの種類の夢が満ちていて、どの夢が出てくるのかは完全にランダムだ。

 箱には複数の種類があり、いい夢、悪い夢などざっくりしたものから、海、遊園地、など場所を指定したもの、近未来、幼少期、など時間を指定したものや、楽しい、切ない、など感情を指定したものなどがある。


 わたしは再び、そんな箱を、試作する夢を見た。

 

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