異世界流刑少女刑 外伝 エリスの宝箱

土田一八

第1話 ギミックハウスを完成させろ

 主人公のエリスは、呪いの契約術式である「異世界流刑少女刑」の流刑執行により、異世界に転移させられた。表向きは。しかし、執行者である女神アテナの後悔によって、事実上恣意的なアクロス王国による勇士召喚に置き換えられていた。



 アクロス王国。王都アーテナイにある宿「月桂樹」。一旦部屋に落ち着いた私は宝箱をマギアボックスから取り出した。この宝箱は私がオリュポンスにいた時に自分で作ったモノだった。しかし、中身に宝物は入っていない。入っているのは家具などのミニチュアなどだ。ただ、時間的な都合で生活に必要な最低限の造りしかできていなかったし、ギミックもそうだった。それに名前を変えたかった。それにはギミックハウスを完成させる必要があるのだ。王宮から魔物討伐のクエストが出ているが、時間的余裕を貰ったので今はミニチュアを作る作業に時間を充てる。

 完成していない部屋は三つもあり、完成している部屋も取り敢えずの完成だった。完全に完成しているのはペレキスの部屋とかまど、トイレくらいか。風呂も手直ししたいし…。

 私は宝箱の蓋を開けて中身を出す。特定の呪文を唱えなければただの木箱である。ミニチュアサイズの裁縫道具や布、綿、糸、粘土、ヘラといった材料や道具などが入っている。これまではナイフなどの道具類は短剣を作り変えて使っていたが、今はミニチュアサイズで道具を作ったので、作り変えなくともいつでも使えるようにしてある。ミニチュアサイズで作ると実物化が無理のようにも思えるが、加護の力を使い、実物化を想定してミニチュアを作れば問題なく実物化できる。但し、実物と同じ材料で作る必要はある。

 さて、何から手をつけようかな。


 取り敢えず、一番使いそうなリビングルームから手をつける。


 既にカーテンや照明の取り付けは終わっているし、絨毯は敷いてある。テーブルもある。置く家具が一番多いので後回しになっていたのだ。ソファーセットは絶対必要だし、テーブルセットも必要だ。キッチン兼ダイニングテーブルとも趣が違うものを制作しなければならないのは手間だった。机は割と簡単だが椅子のデザインは結構面倒くさい。


 テーブルは角材から加護の力を使って大雑把に切り出す。ダイニングテーブル、リビングに置くテーブル、客間に置くテーブル、ソファーに置くテーブル。だんだん小さく、高さも低くなっていくが問題ない。むしろ好都合。手間が省ける。彫刻は切り出してから。ヤスリをかけて仕上げる。次は椅子。これが面倒だ。ソファーは布などを張り付けるだけでよかったが、テーブルセットの椅子は部品を作って組み立てる必要があるので、加護の力があっても組み立てる手間はあまり変わらない。切り出しや削り出しに失敗しないだけマシともいえるが。そうだ、ペレキスが休める場所も作っておかないと。

 今日はテーブルセットなどを揃えるだけで終わった。


 翌日。屋根裏部屋の一つである客間の内装を手掛ける。絨毯と壁紙(布)を敷いたり貼ったりする。テーブルセットを置く。ベッドを並べるが、布団はまだ敷かない。後は、別の造りになっている工房と倉庫を取った後をどうするかだった。応接間にでもするかな。

「あ、いい事思いついた」

 ここは特定の部屋にせず、ギミックにする。部屋は箱を入れ替えれば用途別に取り替えられるようにする。箱自体もギミックにすればほぼ無限の可能性がある。宝箱自体がギミックだし…。その都度、必要に応じて箱を制作すればいいだろう。今、あれこれ考える必要もなくなる。一石二鳥だ!水周りのギミックを改良したら宝箱もとい移動式住居の問題は解決する。


「これで、一応完成っ」


 後は名前を付け直す。


 ユリスの宝箱。


 ギミックハウスなどとセンスの悪い名前はサッサと改名する。


「よし。今から、この家は、ユリスの宝箱だ!」


 宝箱は白く光って反応を示す。



 翌々日。クエストである物討伐に出発する。


「主。なんだか楽しそうだな?」

 ペレキスは私に話しかける。

「うんっ。今日は、宝箱を試すよ」

「完成したのか」

「取り敢えず。でも、普通に使うには問題ないよ」

「ほほう!」

 ペレキスは興味津々の模様だ。



「今夜はこの辺で夜営しよう」

「うむ」

 森の中に開けた場所を見つけて、そこに降りる。私はマギアボックスから宝箱を取り出して呪文を唱える。

「宝箱よ。開け!」

 宝箱は家に変身する。

「全ての灯りを灯せ」

 家の中の灯りが灯される。家の周りに加護の力である土機能を使って落とし穴を掘って隠し土壁を作っておく。

「中に入ろう」

「おう」

 私とペレキスは玄関から中に入る。玄関マットに仕掛けてある浄化機能が働き、汚れを落として綺麗にしてくれる。土足だけでなく全身が綺麗になるので手洗いやうがいに身体を洗うのも必要もなくなり、水が節約できる。汚水の発生も抑制できる。暖炉の薪に火を点けて家を暖める。

「じゃあ、ご飯の用意をするね」

「おう!」

 かまどにも火を点けてお湯を沸かす。料理は昨日のうちに作っておいたものだけど。ペレキスは相変わらずガツガツ食べてくれる。




 食事を済ませてくつろぐ。ペレキスは早速自分だけのスペースに行ってしまった。私はお風呂の準備をする。浄化機能だけでも綺麗にはなるが、身体を休めるにはやはり風呂は必要だ。加護の力で水機能と火機能を使ってお湯を出す。


「ふぅ~」


 気持ち良くて熔けそうだ。疲れが癒されて行く。


 髪の毛は角槍を使って火の機能と風魔法を応用し、温風を出して乾かす。


「では、おやすみなさぁい」

 私はベッドに入って布団を被った。



                                 完

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