第10話 後始末

 アーベルは重たい死んだ男の体を担ぎながら、本人の隠れ家に入ってくる。ちょうどそのときヴィルたちが、最後の部屋の扉を破壊したところだった。

 部屋の中は真っ暗だったので、真莉は炎の力を使い、火の玉を生み出す。ぼんやりと明かりに照らされたのは、一人の少女の体だった。


「あっ!」


 真莉は部屋に飛び込み、彼女の体にそっと触れた。すると、少女は飛び起き、おびえた目で真莉を見つめた。


「怖がらないで! 私はあなたの味方よ。あなたを監禁していたあの男はぶっ殺した。もう大丈夫、誰もあなたを傷つけない」


 少女はカタカタと震えて目の前の女の子をしばし見つめていたが、やがてわっと泣き出し、真莉の胸に突っ伏した。


「大丈夫、大丈夫だよ」


 真莉はそう言い続け、被害者の背を撫でた。彼女が落ち着いてきたときに、アーベルは尋ねる。


「話せる?」


 少女は真莉の服の袖をつかんだまま、小さく頷いた。


「名前は言えるかい? 年齢は? 両親の名前は?」


 彼女はか細い声でそれに答える。


「やっぱりそうか。僕は君の父親を知っているんだ。君が失踪してとても心配している。でももう大丈夫だ。早く帰ろう」


 少女はその後、無事帰宅し、家族と三日ぶりの再会を果たした。


 彼の芸術品は真莉が責任を持って燃やした。彼らの遺骨は家族や仲間に返されたが、それを見た者の多くはその場に崩れ落ち、激しく泣いた。

 男の死体はやはり真莉が、灰になるまで燃やした。この世から存在を消されることは、芸術家によってもっとも悔しいことだ。だからこそ、そうした。


「こいつがいきなり消えて怪しまれないかな」


 ヴィルがぼそりと呟く。


「大丈夫。ニューヨークは大きいんだ。人ひとり消えたって、別に全然不思議じゃないさ」


「結局あいつは最後まで自分の趣味という箱に閉じこもっていたと思うんだ」


 アーベルに続けて、真莉が言う。


「箱から出ないような奴は、最後までそこに固執したままそこで死ぬ。これも私が箱が嫌いな理由だ」


 三人は男の灰を適当に公共のゴミ箱に、ちょっとずつ分けて捨てた。最後のものを捨て終わった時、真莉は灰が入っていた紙袋をぐしゃりと握りつぶした。

 捨てられた灰は風に吹かれ、ニューヨークの闇に呑まれていった。




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箱 ~Fairies 短編~ 西澤杏奈 @MR26

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