たからばこ

シンカー・ワン

箱の中身はなんじゃらホイ?

 冒険者に馴染みの『箱』といえば?

 『火口ほくち箱』? 確かに。出かけるときは忘れずに、だ。

 しかし、冒険者につきものの『箱』といえばやはりだろう。

 『宝箱』

 遺跡を探索し迷宮に潜って、を見つけたときの喜びを知らない冒険者はいないだろう。

 けたときに金銀財宝文字通りお宝に出会えれば喜びは何倍、モノによっちゃあ何十倍。

 当たりばかりじゃない。外れを、盗掘済みの空箱を引き当てた場合の落胆と言ったら!

 見つけるまでの労力と時間を返せと思わず叫んでしまいそうになる気持ち、わかるわかる。

 そんな『宝箱』 大雑把に分けると二種類。

 ひとつは旧時代の遺跡から見つかるもの。

 こちらの『箱』は一度開けば「ハイ、それまでよ」の早いもの勝ち。

 開いた『箱』に再びお宝が満たされることはない。――まぁ、どこかの好事家がお遊びで詰めたりすることもあったりはするが、ハッキリ言って稀。

 もうひとつの『宝箱』  主に迷宮ダンジョンで見つかる『箱』はリポップされる。

 一度開いた『宝箱』も、開けた者たちが迷宮を出ると、なぜか再充填されているのだ。

 理屈はわかってない。

 迷宮が発見されて以来、研究考察は絶えず行われているが、一度倒した怪物や開けた『宝箱』が再補給される現象を解明したものはいないのだ。

 怪物については、外から入り込んだり迷宮内で繁殖している種もいたりするので、一部は理由付けがなされている。

 それ以外について賢者や学者は黙して語らない、語れない。

 神代のころから存在する迷宮、人の道理が通じると思う方がおかしいと主張する声もある。

 世のことわりのにあるのが迷宮なのだと。

 怪物たちはともかく、『宝箱』については謎のまま。

 本当にのならば、財で世界は埋め尽くされるはず。

 そうならない、なっていないのは、どこかで同量の財が失われているのではないかという仮説がたち、おそらくそれは正しいのだろうと今に至っている。

 神がもたらしてくれたシステムならば、欲を掻き過ぎない程度に享受しよう。と、賢い人の集団が世界の偉い人たちに説いて回ったのも昔の話。

 難しい話は置いといて、『宝箱』といえば罠だ。

 代表的なものは毒針・毒ガス・石弓の矢・麻痺に石化に爆弾・警報。

 そして問答無用の凶悪さで知られる転移テレポーター。こいつのなにが恐ろしいかって、発動一発『いしのなかにいる』。

 中には『宝箱』そのものが怪物だって罠もある。擬態獣ミミックだ。

 昔のミミックは見事に『箱』に化けて、いくつか魔法だって使っていたものだが、最近のやつは横着になったのかからの『箱』に住み着いて獲物を待ち構えるようになってしまった。

 比較的新しく発見された迷宮の『宝箱』には、お馴染のやつ以外にる気満々発動即死亡な罠がいくつも確認されてたりする。

 ビックリ箱だの虹のきらめきだの女神の抱擁だのと、言葉の意味はよくわからんがどいつもこいつも凶悪至極な罠だらけ。

 しかし、どんな恐ろしい罠だろうが解除してしまえば、待つのは財宝の山。

 魔法の武具にレアアイテム、金銀パールプレゼント。選り取り見取り。

 そして今もどこかで『宝箱』に挑む者たちが居る。

 

「なーなー、まだかぁ?」

「繊細な作業なんですから、急かせてはいけませんよ」

 立てた愛用の槍に持たれかけながら、熱帯妖精トロピカルエルフが催促の声をかけ、女神官尼さんがたしなめる。

 頭目リーダー女魔法使いねぇさんは魔法の明りを操り、解除作業がやりやすいようにと手元を照らしてくれている。 

 迷宮の玄室、占拠した怪物たちを打倒うちたおし、現れた『宝箱』に挑むのは忍びクノイチ

 鍵開けは『駒』だったころに叩き込まれている。重要機密の書付などが隠されているのはだいたいが施錠された場所なので、盗み見るあるいは奪うためには必須の技術だった。

 細工師――おそらくは洞人族ドワーフだろう――との錠を介したやりとり。互いの技術を駆使した言葉を使わない会話が忍びは嫌いではなかった。

 冒険者として初めて迷宮に入り『宝箱』と対峙したときは、『駒』時代に対応したとは別物で面喰ったものだ。

 迷宮入りする前に受けた、登録所での引退した達人枠マスターフレーム盗賊のレクチャーがなかったらどうなっていたことか。

 同じ命のやり取りでも『駒』のときとは違い、どこか楽しんでいる自分を感じていた。誰に命令されたわけでなく、自分の命を自分の裁量で定められるのだから。

 けど今は違う。

 しくじっても失うのは己だけだった単独ソロ期とは変わった。仲間の生死が自分の腕にかかる。

 責任は重いが、その重さに心地良さを感じてもいた。この重みは独りのときには得られなかった大切なもの。

 罠を解除し鍵を開け、中に詰まった財宝を目にした際の仲間たちの歓喜、それを見るのはとても嬉しい。

 が入っているのかを知る瞬間の高揚は、何度味わってもよいものだ。

 ――よし、手応えあり。罠は外した鍵も開いた。

「終わった」

 自分を見守ってくれている皆へ、顔を向け伝える忍びを、

「お~っ」

 歓声をあげながら押し退けて、熱帯妖精が『宝箱』へ飛びつく。

 邪険にした熱帯妖精に文句を言う忍び。そんな光景を見て笑う年長者のふたり。

 さて、『宝箱』にはなにが入っているのやら?

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