エージェント畳三十郎
たたみや
第1話
俺の名は
この
今日は会社の運搬作業に使う段ボール箱のデザインを発表するためのプレゼンテーションだ。
デザインを一新してお客様にPRしようという戦略だ。
嵐を呼ぶ男と呼ばれている俺だ。
今日も今日とてバッチリ決めてやるぜ。
「先輩、マジかっけーっす! リスペクトっす!」
「おお、溝口か。サンキューな」
俺に近づいてきたこいつの名は溝口。
くりくりとした目と出っ歯が可愛い俺の後輩だ。
俺と溝口は会議室に足を運ぶ。
「失礼致します」
席には社長の押川、事業企画部長の山岸、事業企画課長の田山の三人が座っている。
さあ、これから事業の明暗を決める一世一代のプレゼンテーションだ。
「では早速、今回の内容を発表してもらおうかな」
社長の押川、この三人の中では一番普通の外見をしている。
強いて言うなら見た目が実年齢よりちょい若いくらいか。
見た目は冴えないサラリーマンだが、やたら女好きなんだよな、この人。
「はい。今回我々事業企画課が総力を挙げて三つのアイデアを考案しました」
「田山君、君を除いたら事業企画課は何人かね?」
「三人ですねー」
「一人一つしか考えておらんではないか!」
「まあまあ社長、選りすぐりのデザインってことじゃないですか?」
課長の田山、通称のんきーコング。
ゴリラ並にやたらめったら体がでかいくせに、のんきで心優しすぎる男。
正直日和見主義が過ぎるくらいだ。
内心バカにしている部下もいるんじゃないか?
ひよってるやついる~? って聞いたらみんなこいつに視線を向けることだろう。
「では最初にこちらのデザインをご覧下さい」
「地球は分かるのだが、その隣の三日月は何故緑色なのだ?」
まあまあ社長、落ち着いてくれよな。
「これはミカヅキモです」
「「「ちっさ!」」」
「緑色のバナナじゃなかったのかー」
しかし課長、それは課長がしていいレベルの発言じゃねえぞ。
「こちらにはあるメッセージがこめられています」
「その話詳しく」
部長の山岸、通称くわしく・バンディクー。
長身面長七三分けでいかにも重そうな四角いレンズのメガネをかけている。
何かにつけて『詳しく』と言って詰め寄って来るからみんなに嫌われている。
なぜバンディクーなのかと言うとオーストラリアの帰国子女らしい。
しかも現場上がりと聞く。
こんなバリバリ体力勝負な運送会社に何故かいるインテリ枠だ。
「我々は大物から地位だけ高い三下のような奴らまで、丁寧な対応を心がけていますという裏メッセージがこめられています」
「なるほど、承知しました」
「そんなん失礼過ぎるし、そもそもこれ見ただけじゃ分からんよ」
まあまあ社長、お楽しみはこれからだぜ。
「続きましてはこちらですね」
「剣に杖、それに王冠やモンスターが描かれているな」
「これもメッセージ性がありそうですね。その話詳しく」
流行りものだから食いつきがいいじゃねえか。
「こちらはですね、『現実に絶望してるならトラックに轢かれて異世界に行こう!』です」
「おー!」
決まったな、溝口が合いの手まで入れてくれたぜ。
「それ人身事故だよね! それじゃあ会社のイメージがダダ下がりなんだよ君! わが社は絶対そんなことさせないししないぞ!」
社長が熱をこめて反論してるけど、俺知ってるんだよなー。
社長の書斎に異世界チーレムものの本が結構置いてあるってこと。
だから正直説得力がない。
「何だー、『荷物があるなら異世界だって運搬しますよー』じゃないのかー」
やっぱこの課長のんきだわ。
「最後になりますが、こちらのクソガキです」
「君何だか口が悪いね。どう見たって可愛い男の子じゃないか!」
「そうですよね。何せ社長と愛人の隠し子ですから」
「その話詳しく」
おおっ、部長が反応したぞ。
上にも下にも媚びを売らないところ、嫌いじゃないけど好きじゃないぜ。
「愛人は五年ほど前に社長が高級ホステスで出会った女性で、その後ほどなくして社長と逢瀬を重ね……」
「そのような事情があったのですね、承知しました」
「あー、道理で目と鼻が社長に似ているのかー」
「何なんだこれは! ふざけているのかあああっ!」
その後社長からどやしあげられ、部長から詰め寄られ、課長からバナナをねだられた。
仕方がないので課長にバナナの皮だけあげた。
そしたら課長は喜んだ。
そして突然時はやって来る。
俺はやはり嵐を呼ぶ男らしいな。
「先輩、昨日はメチャクチャかっこよかったっす! マジリスペクトっす!」
お前だけだよ溝口、俺のことを分かってくれるのは。
エージェント畳三十郎 たたみや @tatamiya77
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