私の振袖
@harukareno
第2話
もうすぐ成人式だ。
友人たちは最近、よく振袖の話題で盛り上がっている。買う人もいればレンタルする人もいるが、私はレンタルにしようと思っている。うちに振袖を買うくらいの余裕があるとは思えないからだ。
高校を卒業後、仲の良い子たちは進学したが、私は就職することにした。お金を稼ぐことは厳しくて毎日鍛えられている。私の家は母子家庭で、祖父母の家に住んでいる。母は毎日働き詰めで、そんな母を見ていたら進学したいとは言えなかった。
色はどうしようか。スマホのカバーも財布も赤色だし、赤色の振袖がいいな。そう思っていた矢先、
「お母さんの振袖をあげる」
絶句した。その振袖は、赤色ではなく、黄緑色だった。
「そんなの嫌!」
「大事にとってたんだから!もう!子どもみたいに駄々こねて!」
母が着た振袖を着たくないわけではなかった。大事にとってたんだからという言葉が頭の中でこだまする。つい言葉足らずに否定してしまったことを悔やむ。その振袖は、赤色などの色彩豊かな大きめの花柄や着物ならではの絞りがあって、何年も前の物なのに全く古くさくなくとても綺麗だった。
もう私は二十歳だ。大人にならないといけないのにわがままを言うなんて、まだまだ子供だ。
しばらくすると、祖母がやってきた。
「あんなに小さかったのに、大きくなって、もう二十歳かい。あの振袖を着てくれるの?赤色じゃなくていいのかい?」
祖母は私のことをよく見てくれている。赤色の振袖が着たいなんて一言も言っていないのに。
「一生に一度の成人式だから、好きな振袖を着てもらいたいと思ってるよ。おばあちゃんと一緒にレンタルだけど見に行こうか?」
「おばあちゃん、ありがとう。あの振袖が可愛いくないわけじゃないの。とっても綺麗だった。少し考えておくね」
私はネットで色々な振袖を検索した。けれども、ハッとするような、胸がときめくような着物は見つからない。母の振袖を初めて見たときの感覚にはならないのだ。
さらに検索をすると、ネイルチップが見つかった。黄緑色に赤やピンクの花柄だ。
「お母さん、見て!このネイルチップ、お母さんの振袖に似合いそうじゃない?」
私はスマートフォンの画面を、食器洗いをしている母に見せに行った。
「あら!本当ね!繊細で綺麗なデザインね〜」
「なんか美大出身ってプロフィールに書いてあったよ」
「美大?!」
居間に入ってきた祖母が驚いた様子でいる。祖母は絵画教室に通っているから興味があるのだろう。
「すごいよ、見てみて!」
私は祖母にスマートフォンを渡す。
「これはまた、見事な和柄ね!細かいねぇ。本当、あの振袖の柄によく似てるね」
祖母は、本当に絵が好きなようで見惚れている。
「さっきの話だけど…。あの振袖、気に入ったらあげるから。買ってあげられなくて、ごめんね」
振り向くと、母が少し気まずそうな表情だった。
「もう、いいって。…ありがとう。あの振袖が着たいな。綺麗だったし」
母は、少し驚いた顔をしてから嬉しそうに笑って、私の頭を撫でた。
私の振袖 @harukareno
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