シュレディンガーの箱と玉手箱(KAC20243)
つとむュー
シュレディンガーの箱と玉手箱
「ねえ、
放課後。
科学部の部室に顔を出すと、部長の
シュレディンガーの箱?
猫なら知ってるけど。
「猫を入れちゃうあの箱ですか? 生きてるか死んでるか、開けるまでわからないっていう」
「そう、あの箱」
量子先輩はニヤリと笑う。
「あの箱って実は、すごいんだよ」
ゆっくりとした静かな口調で解説を始める先輩。
まるで人生を達観するかのように。
「生きてるか死んでるかわからないってことは、声も通さないってことなんだ」
ふむふむ。まあ、そうだろう。
中から「にゃあ」なんて聞こえたら、生きているのがバレバレだし。
「動いても振動は伝わらないし、重心移動も外部からは分からない」
これは盲点だったが、確かにそうだ。
箱が揺れてたら、これまた生きてるのがバレバレだ。
でも重心移動の解消はどうやっているのだろう?
ジャイロ機能でもあるのだろうか?
「それにね、時間の進み方も遅くなるんだよ」
「えっ? それってどういうことなんですか?」
思わず質問してしまった。
時間については、考えても分かりそうもなかったから。
「実験中に、猫の寿命が来る可能性もあるからね」
いやいやいや、確かにその可能性はゼロではない。
厳密に計算すると、ほんのわずかだが生死の確率は死の方が大きくなってしまうだろう。
「猫の命は短いからね」
そんなに胸を張って言わなくても。
でも、満足そうな先輩の顔を見ていると、細かいことなんてどうでもよくなってしまう。
「ところで朗太くん、時間の進み方が逆に早くなる日本古来の箱があるんだけど、知ってる?」
今度は早くなる箱か……。
なんか聞いたことあるなぁ、それって。
その時、僕の頭の中に一つの言葉が浮かび上がった。
「玉手箱!」
「そう、その箱」
すると量子先輩は、とんでもないことを訊いてきたんだ。
「ねえ、朗太くん。君が入るとしたら、どっちの箱がいい? シュレディンガーの箱と玉手箱」
ええっ、それって僕が実験台ってこと?
僕は猫じゃないんだけど……。
でも先輩にじっと見つめられると答えざるを得なくなる。
えっと、シュレディンガーの箱は時間が遅くて、一方玉手箱は早く進んじゃうから—―
「シュレディンガーの箱ですね」
自信満々に答えると、先輩の表情がみるみる曇っていく。
「なんだ、朗太くんなら玉手箱に入って、私と一緒に受験勉強してくれると思ったのにな……」
すねた量子先輩は、一年分の命を捧げてもいいと思えるくらい可愛かったんだ。
シュレディンガーの箱と玉手箱(KAC20243) つとむュー @tsutomyu
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