おならジーザス

山ノ蜜 さくら

このクソガキめが

小学生の3年生、図書室で好きな本を選んで借りようみたいな授業があった。みんな散り散りになって友達とおしゃべりしたり本の表紙のイラストみてこのおじさんの絵ぶさいく〜て言いあってクスクス笑いあったり本棚に隠れながら鬼ごっこしたり無法地帯と化していた。授業中の教室のさらに奥の奥に図書室はあったから騒いでも苦情が入ることがないし担任の大盛り先生は怠そうにしていた。静かにしなさいとか言いながら全然静かにさせる気なくてクソガキ達からしたら実に好都合だった。今思えばあの先生職務怠慢すぎる、わたしが校長ならクビだよクビ。

仲良くなった男の子とわたしは2人で教室の隅で追いかけっこしていた。その男の子は目が大きくてクリクリで睫毛もバサバサの、鼻もスッとしてるし唇も形よくて薄くて、いわゆる美形男子だった。小3のわたしにはイケメンに反応しるセンサーがついていなかった為に席が近くてよく喋る、ノリのよいクラスメイトの一人としか思わなかった。わたしが本棚から無難に童話ものシリーズの本を手に取ったら美形男子がわたしの腕を掴んだ。「タッチ!さくらが鬼な!」とニカッと笑いワクワクを目に携えて走って隣の誰もいない本棚に隠れる。わたしは猛ダッシュで追いかけて美形男子に手を伸ばしたとき。改造したバイクのエンジンを思いっきりふかしたような爆音が響いた。わたしの尻から。


熱くなりすぎて顔がぽとんと落ちそうだった。


美形男子は顔を真っ赤にして「え?」と言っていた。



特大の屁をかましてしまったわたしは、このままでは学園生活が終わると確信した。


図書室内の全ての生き物の呼吸が停止したと思う。シーンと空気が張り詰めて、そこからドッ!と騒がしくなった。「今のなんの音?」「だれだれー!」「おならやろ!!」「そっち誰がいる!」


みんな近づいてくるゾロゾロとした靴音にわたしは一瞬で顔色を戻した。呼吸を整える。心臓の音が正常に動き出す。



本棚の裏から気の強い男子達が群れになって押し寄せていた。好奇心と少しでも変なことを言うと飛びついて餌食にしてやろうと舌舐めずりをしているハイエナのように見えた。


「今のおらなどっち?」


わたしは口元に手を当てる。


「あんまり騒いだらあかんって。かわいそうやろ」




わたしはしらばっくれて罪を美形男子になすりつけた。


美形男子はポカンとしてから「え?!えっ!ちがっ!かわいそうじゃない!」と混乱していた。


ハイエナ達は飛びかかった。


わたしは友人を1人失った。


今も思い出すたびに首を項垂れながら、「ごめん」と思う。もう二十年経ったのに罪悪感は消えないし、二十年先も小3の姿のクラスメイトに謝ってると思う。



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おならジーザス 山ノ蜜 さくら @sakura3dayo

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