最終話 カルマ

 白い天井と、一定間隔で鳴る心電図の音。


 ぼんやりとした視界がだんだんハッキリとして、意識が外界と干渉すると、俺は病院にいることを認知するのだった。


 その時、ズキリと脇腹が傷んだ。そうだ俺は、あの時……


 その痛みとともに、あの時のことを思い出していく。


 テーマパーク内を陽姉と一緒に歩いていた時、の男は、陽姉に向かってナイフを持ちながら突進してきた。そしてそれを俺が庇った。


 そいつを俺は青木かと思っていたが、それを見た瞬間に俺は、気づいた。

 何日も何者かの視線とつけられている感覚があった。それは黒い影だった。青木は青いダウンを着ていた。


 そうだ、つまりだ。


 やつは、陽姉ではなく、俺を狙っていたのだ。


 やつの正体は、青木では無い。そして、日頃から俺をストーキングしていた人物。


 最後に、俺の意識が遠のく中、フードからちらりと見えたあの顔は、見覚えがあった。


 陽姉の元婚約者である、星野ほしの 煌大こうだいだ。


「あ……あいつ、復讐のために」


 病室のテレビをつけると、星野が逮捕されたニュースが流れていた。


 星野の供述はこうだった。


 婚約者を奪われたその復讐として俺を殺し、陽姉を強制的に奪い取るというつもりだった。


 それをしたら、奪い取ることは出来ない行動だと正常な人間ならそう思うだろう。しかし、恋によってまともな思考ですら出来なくなっているのである。


 ◇


 その後、俺は予定よりも早く退院した。


 陽姉が毎日、少しの時間ではあるが、お見舞いに来てくれたことが、力になり、俺の傷の治療に影響を与えたのかもしれない。


 家に帰ると、いつもの光景が広がっていた。


 おかえりと言って、ソファに座る陽姉、陽姉が住むようになってから小綺麗にされた部屋。


 ようやく心が落ち着ける気がする。


 俺は、ただいまと言って、陽姉の隣のソファ座った。


 そこで俺は、いくつかの違和感に気づいた。


 机に、一枚の紙が置かれていた。


 俺のものは使ったからもう無い。あいつのものは破り捨てた。なら誰のものだ?


「陽姉、あのクローゼット」

「ああ、あれ?最近買ったの」


 俺の自室には、見慣れない新しいクローゼットが置かれていた。


「どうして急に?」

「光の部屋、物入れるタンス少ないなって思って」

「なるほど」


 それにしても、陽姉は、事件前よりも元気になった気がする。


 普通なら、こんなことがあれば誰しも気分が沈み、元気が無くなるだろう。俺はそうだ。しかし、陽姉はその逆だった。


 もしかしたら、俺を励まそうと、自分だけは明るく振舞おうと気を使ってくれているのかもしれない。


 服や髪もまた変えて。香水やネイルなんかもするようになって、そして、また、色々な場所へ旅行に行こうと提案してくれた。


 また、幸せな毎日が戻ってきたのだ。


 これから、昔の青春を取り戻すかのように、俺たちは幸せに過ごしていく。晴天のような日々を。もし、曇り、雨が降るようなら、それはあのクローゼットが原因だろう。


俺はあのクローゼットの中が怖かった。


 だが、今のところは大丈夫だ。


 行きたい場所へ好きな人と旅行へ出かけ、完全に傷も回復した。


 そんな今だからこそ、俺は何故か昔の自分へ手紙を書こうと思った。


 陽姉のことが好きでも、踏み出せなかったあの少年時代へ向けた手紙だ。


少年の頃の俺、元気にやってるか?お前は、今陽姉に恋してるか?丁度陽姉に恋し始めた頃か?まぁ、どっちでもいいか。お前のその気持ちがあるなら。そのことで、いろいろなツラい事や悩み葛藤を抱えているかもしれない。今だから言える。それは無駄じゃなかったぞ。だって俺、今、陽姉と付き合えて、毎日陽姉と楽しい気々を過ごせて、めっちゃ最高の日々をおくれているから。今の俺がお前に本当に伝えたいことは、そのままで一人の女性、陽姉を愛し続けることだ。出来れば悩みを持たず、ツラい事を考えない方がいい。でも!必ず、より良い未来が待っているから!!

今の俺より。


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ここまで、読んでくださりありがとうございました。良ければ、こちらも読んでいただけるととても嬉しいです。


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