クレーム
草凪美汐.
クレーム
カタ、カタ……カタカタ……
○○年○○月○○日
○○○○様
株式会社 竜宮ギフトサービス
製品管理部 ○○○○
ご指摘について
拝啓 時下ますますのご清栄のこととお慶び申し上げます。平素は格別のご高配を賜り厚く御礼申し上げます。
さて、○○年○○月○○日に貴信を拝受いたしました。ご指摘の内容は、「思っていたのと、違う。煙りもいまいち、効力も大したことなかった、がっかりしました。全額返金して欲しい」とのことでございますが、そのような申し出を了承することはできかねます。
商品の製造にあたりましては、材料の審議、製造過程、パッケージのデザインに至るまで何段階もわたって品質のチェックを重ねており、特に製品の品質管理には細心の注意を払っております。また、この製品は受注生産のため、返品も返金もお受けできません。
つきましては、客観的な根拠をご提示いただけない限り、このたびのご要望は承諾しかねますので、あしからずご了承くださいますようお願い申し上げます。
敬具
「先輩、入力終わりました、チェックお願いします」
と、新人のスズキくんが目をこすりながら、こっちに向かって手を上げる。
「ありがとう、後で確認するね」
「クレーム?」
アナゴ係長がおやっとした顔をする。
「ええ、まあ」
「新製品の?」
「いえ、違います。定番商品の『乙姫玉手箱』ですよ」
「ああ、一定数は必ずいるから、新人の仕事には丁度いいね」
その一定数の雑務をどうにかしてほしい。
他にも覚えてほしいことは山ほどあるのだ。
「契約書に受注生産のため、返品不可で書いてあるんですけどねぇ」
「もうちょっと、フォント大きくしようか?」
「赤字と下線も入れるように、言っといてください」
「それは難しいかな?」
やや困ったような顔をする。
「だめですか?」
「以前から打診しているんだが、ずっと変わってないからねぇ」
「カラーって高いんですか?」
と言いながら、ひょこっと間に入ってきた。
「こら、勝手にコピーしない」
「SDGsですね、すみません」
悪びれもせず、口先だけで謝った。
うちはコネ入社多いからな。
私もだけど。
「サヨリさん、電話ですよー」
「はい、はーい」
今日もみんなで定時で帰りましょう。
クレーム 草凪美汐. @mykmyk
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます