闇谷 紅

日常への異物

「現実世界に突然ダンジョンが出現した!」


 なんて設定のネット小説をいくつか見かけたことがある。その中には僕自身が読んだモノも含まれていて、ダンジョンは内部で手に入る品物や場合によっては中から溢れ出してきた怪物なんかで世界に影響を与えて行ったりするんだ。


「僕は好きじゃなかったなぁ」


 溢れ出てきた怪物に犠牲になる人々とかってくだりが特に。もともと無辜の人々が何の落ち度もなく犠牲になるという展開が僕は好きじゃないのだ。正直に言うなら嫌いだ。

 だから、現実世界にダンジョンが現れたって設定のネット小説は読んだとしてもこの手の展開が現れた時点で蹴る、つまり見るのをやめてた。

 面白いって感じて引き付けられ更新があるたびに読んでるような作品でこうなると「時間を無駄にした」とか「作者に裏切られた」とか嫌な気分になったものだった。


「で、そんな折……実際に『ダンジョンが現実世界に』ってなったかって言うと」


 そうじゃなかった。ただ、現実世界に異物が現れ出したっていうところは近しいんだろうか。


「箱」


 現れたのは言うなれば、それだ。立方体でもいいかもしれない。どこかで見た古き良きアクションゲームよろしく、何の支えもなく重力だってあるのに中空に固定されていたりして存在する、箱。

 車道のど真ん中、自動車がぶつかるような位置になんて悪意のあるような出現の仕方はしなかったが、私有地、公道、寺社仏閣、何も関係なく世界各国へ一斉に出現し、人々を大混乱に陥れた、箱。


「本当に謎だよなぁ」


 壊すことも可能ではあるが、気が付くといつの間にか新しく現れることもあって、何かを建設してる工事現場なんかではこの箱は厄介者扱いされている一方、叩くと中から金貨などが出てくることもあり、一時期は箱を見たら競うように人々が叩きに行っていた時期もある。

 もっとも中身のある箱の割合は低いこともあって最終的には箱を叩いて回るくらいならアルバイトでもしておいた方がいいとなったみたいだけど。


「そう言う意味で僕は運がよかったんだろうなぁ」


 ポツリ呟いて僕はベッドに登ると天井近くにある箱を下から叩いた。


「おっと」


 飛び出してきた金貨を避けるとそれはボスッと毛布の上におちる。半日に一度叩くと中から金貨が出てくる箱。

 お気に入りのネット小説がアニメ化すると知ってベッドの上で狂喜乱舞していた際に手をぶつけて僕が初めて金貨を手に入れることとなったこの箱の存在は今のところ僕だけの秘密。


「だけどこの秘密が後々とんでもない騒動を巻き起こすきっかけになるなんて――この時の僕は……やめよやめよ!」


 冗談で口にしてしまったが、何かフラグになりかねない気がして僕は大きく手を振って中断した。


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 箱と聞いて某マンガの「最近私たちの周りでは箱が大人気」的なセリフを思い出して、こうなんかもうそう言うのしか思いつかなくなったという、ね?

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闇谷 紅 @yamitanikou

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