異世界からやってくる箱に剣を刺すだけの仕事
藤原くう
異世界税関のとある1日
異世界から流れてきた木箱に草薙剣を突き刺せば、甘い香りがした。
木箱に張られた紙によれば、中身は魔法石らしい。んなバカな。
私は鍔のないまっすぐな剣をテコのようにして、そいつをこじ開ける。
ギギギっと木箱が開けば、かすかに漂っていた香りが一層強まる。
梱包材もない中には、ラフレシアのような花が鎮座していた。タブレットで検索……完了。
「輸出禁止植物じゃない。しかも――幻覚作用!?」
私は即座に、ダストシュートへそいつをぶち込む。忌まわしい花は暗闇へと、その先のブラックホールへと吸い込まれていった。
ふう、これで問題なし。
ボタンを押し、次なる荷物を呼べば、大きなダンボール箱がベルトコンベアを転がってくる。
立ち上がってあて先を見る。日本の佐世保。どうやら多国籍軍所属の自衛隊員が自宅へ送ったものらしかった。
私はちょっと安堵する。謎の木箱を突き刺すほど怖いものはない。先輩なんか、レーヴァテインをぶっこんで爆発四散した。怖くないわけがなかった。
その箱には彫像と書かれていたが、あまりに曖昧すぎる。これじゃあ確かめないといけない。税関職員としては、日本という同郷のものであっても手を抜けないの。
私は、鍔のないまっすぐな剣を振りかぶり――。
「ま、待つのじゃ!」
「なんだ、箱の中から声がするぞ。疲れてんのかな……」
「わらわは今まさに突かれようとしているのじゃっ」
ふたたび声がした。少女の声が聞こえてくるのは、段ボールからである。
私は、剣でガムテープを切り、フタを開ける。
中には小学生ほどの女の子がいた。
「なんで人が中に……」
「じ、事情を話せば長くなる」
「手短に」
「わたしは王女、クーデターで逃げてきた」
「よし、送り返す」
「待ってくれ! 戻ればわらわは殺されるのじゃ! 死にたくな
い、死にたくないのじゃあ……」
くすんくすん、少女が涙交じり嗚咽交じりに言う。そこまでされると、私はどうにも動けなくなってしまう。
ただ送り返すことならできるけどさ、それが少女の命運を決めてしまうとなると、私には荷が重い。
そうして、段ボールのふたをもって、動かず。
どのくらいそうしていただろう。隣から、足音が聞こえてきた。
見れば、S先輩である。全身火傷を負った先輩は、その手に握りしめた赤い刀身を、段ボールへと突き刺す。
私はそれを止められなかった。あまりにもよどみない動きだった。
血が――噴きださなかった。
ガチン。
ただ、硬いものと硬いものとがぶつかるような音がしただけ。
「なにぼんやりしてんだ? 薬でもやってるんか?」
鈍器のような言葉を浴びせるだけ浴びせた彼は、さっさと自分の持ち場へと戻っていく。
私はしばらくの間動けなかった。やっとのことで段ボールの中をのぞき込む。
そこに少女はいない。ただ、物言わぬ彫像が、幻覚上の少女と同じような格好で入っているだけだった。
異世界からやってくる箱に剣を刺すだけの仕事 藤原くう @erevestakiba
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