第2話
「お疲れさま」
外は雪。
ホワイトクリスマスだ。
そんな日でも、いやそんな日だからこそ、僕の店は繁盛していた。
クリスマス当日でも駆け込みのようにして小さな僕の店に飛び込んでくるお客様はいるのだ。
理由はお客様それぞれだろうが、バイト2年目の女子高校生、箱崎さんと忙しく過ごす二度目のクリスマスは、最後のお客様をお送りして、やっと店じまいにすることが出来た。
「つかれたぁぁぁぁ!」
レジ裏の椅子に崩れるようにして座れば足を伸ばし、箱崎さんはぐったりと天を仰ぐ。
寒い日でもホットパンツ。
健康的な足がまぶしすぎる。
僕をもうちょっと、男として見てほしいな。
君から見れば僕はもうおっさん、恋愛対象には入らないんだろうけど。
「どうぞ」
「ありがとっす!」
砂糖多め。
彼女の好みももう知り尽して、コーヒーを渡す。
インスタントコーヒーだけれど、それでも今日くらいはちょっといいのを。労いに。君にも、僕にも。
僕はブラックコーヒー。
濃い目のそれをちびちびやるのが好きだ。
箱崎さんは、ふうふうと冷ますと一気に飲み干す。
「生き返るぅ!」
ぷはあって、おっさん臭い。
コーヒーでそれもね。
「なんすか、ニヤニヤして」
「いや、君は今日も変わらないなって思ってね」
「なんなんすか、それ、嫌味っすか?」
そういいつつ、彼女はやっぱり明るい笑顔だ。
店内のクリスマスイルミネーションはまだキラキラ光る。
彼女の顔もまぶしく照らす。
「今年一年、お疲れさま」
「まだ終わってないっすよ」
「まあでも、このクリスマスの時期を超えればもう、うちみたいな店は終わりだからね。一年の締めくくりがクリスマスだ」
「ま、そっすね」
少し、まったりとした時間が流れる。
「いいのかい? せっかくのクリスマスに。バイトに出てくれたこともだけど、この後に予定は?」
「ああ、まあ……。ないっすね」
「君なら誰からにも呼ばれそうだけど」
「ま、そっすね……」
何か、ぼんやりしている。
「店長がかわいそうだからっすよ」
椅子にどっかり座り、投げ出した足も変わらず、僕を見て彼女は笑った。
心臓がドキりと鳴った。
「そ、そうか……。今日は忙しい日だからね。君が入ってくれて助かったよ」
「そういうことじゃ、ないんすけどね」
無言の間。
じっと、箱崎さんが見詰めてくる。
今日のカラコンは赤。
クリスマスに合わせたというけれど、情熱的な赤い瞳に見詰められ、僕はなおさらドキドキする。
「店長、なんかウチにないんすか?」
「え?」
急な発言。
思ってもみなかったこと。
動揺でコーヒーカップを落としそうになった。
「ご褒美」
「はい?」
「一生懸命がんばったっすよ、ウチ。なんか、欲しいっすねえ。サンタさん、してくれないんっすか?」
「そうか……」
なんだ、そんなことか。
でも、実は用意してある。
ちょうどいいタイミングになった。
僕はバックヤード、というか、住居空間なんだけれど、そこへ入って、用意しておいたプレゼントを持ってくる。
少し前に「どの箱と、どのラッピング、箱崎さんが好きなのはどれかな?」と、店用のと見せかけて、ちょっと卑怯だけれど訊いておいた、彼女好みのプレゼント箱。
「なんすか? なんすか!」
「はい、これ」
「な、なんだ、本当にあるなんて! いってみるもんすね」
「いつもありがとうの気持ち、僕からのクリスマスプレゼント」
「いいんすか? ここで開けても」
「う、うん、ちょっと照れくさいけど」
「なんかそれって、彼女へのプレゼントみたいっすね」
「ば、ばか」
「ばかはないっすよ、ばかは」
ハハハと笑いつつ、彼女は丁寧にラッピングをほどいた。
「これ!」
以前、彼女が欲しがっていたブーツだ。
ふわふわもこもこのベロアがかわいい。
「これ、いいなあ。でも、ウチにはかわいすぎるか」
以前、店の買い物に一緒に行ったとき、とあるブランドショップのショーウィンドウから見えたそれに、「たっかッ!」の一言の前につぶやいたこと、僕は覚えていた。
「いいんすか、いいんすか、これ?」
「うん。遠慮なく受け取ってよ」
「大事にするっす!」
「ハハハ。ありがとう」
宝物を得たように、僕からのプレゼントを胸に抱く彼女を見ていると、なんだか顔がほてって仕方ない。暖房、利かせすぎたかな? キラキラのイルミネーションももう落とそうか。熱いなあ。
「これ履いて、デートしません?」
また、冗談。
「そういうのでからかわれたら、僕、勘違いしちゃうよ、もう……」
「勘違いしてもいいっす。てか、本気だし」
彼女はひたと、僕の目を見つめてくる。
「ウチ、もう卒業じゃん? でもさ、ウチのままで雇ってくれるとこって、ここしかないような気するんすよねえ。店長は、いや?」
小さな雑貨屋と、ギャルな箱崎さん 歩 @t-Arigatou
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