小さな雑貨屋と、ギャルな箱崎さん
歩
第1話
お客様は悩んでいた。
「どの箱になさいますか?」
「うーん……」
「ラッピングはどれを選ばれますか?」
「えーっと……」
うちは小さな雑貨屋だ。
他との差別化を図るために、プレゼント包装を希望されるお客様にはサービスで箱とラッピングを自由に選んでもらえるようにしている。
「店長、あれ、めんどくさい!」
口さがないバイトの女の子はいつもぼやいている。
クリスマスの時期にでもなればもう、それでレジが長蛇の列になってしまうから。
結局、バイトの女子高生、箱崎さんとの相談に次ぐ相談、店長を店長とも思わない、彼女との何日にも及ぶ戦いの果てに、
「じゃあ、もう! 繁忙期だけなしで!!」
「そう、それがいいっす。当然す」
「それでも、こちらで数種の組み合わせ作っておいて、それを選んでもらうことにしよう。それは譲れない」
「めんどくさ!」
ギャルな彼女はでも、笑っていた。
明るい笑顔。さっぱりとしたそれは、趣味の延長のような仕事で儲からない、それでも精一杯のおもてなしをしようとがんばっている僕をいつも励ましてくれる。彼女が笑ってくれれば、何だかうまくいくような気がする。
箱崎さんは、面接の時から態度が、そのぅ、横柄だった。よくいえば、おおらかで人との境目を作らないともいえるけど。
「欲しいものがあるんすよ。ここ、かわいいもの多いっすよね。それに囲まれながらお金もらえて、それで自分の欲しいものが買えるなら最高じゃないっすか」
ふつう、そんな高校生を採用するわけないと思うだろう。
けれど僕は、かえってそれがいいと閃いたんだ。
毎日違うカラコンはちょっとどうかなと思うときはある。けれど、ピアスも光るし、派手な服装はけっこうきわどいけれど、制服代わりのエプロンが意外と似合うのだ。
雇ってみれば、やはり大正解。
案外子供好きで、その目線に立って一緒にモノを選んでくれたり。
敬語かどうか怪しい言葉遣いも、目上の人にはきちんと対応してくれたり。
ギャルが嫌いな人は嫌いだろうし、彼女も「二度と来んな!」と追い払った、彼女目当てのやんちゃな男の子もいてそれはそれで難儀なものもある。それでも、彼女が店のインテリアも明るくしてくれたし、子供や女性にも受けるようになって、ディスプレもお客様からほめてもらい、そこから手に取ってもらえるものも多くなった。
来てくれて本当に助かった。
いつも感謝は月末、給料明細を渡す時に。
「たいしたことしてないっすよ」
なんて、そのときの彼女の照れた顔は貴重だった。
「欲しいものは買えた? お金はたまったの?」
「うーん……。まあ、ぼちぼちっすねえ」
「その口ぶりだと一つじゃないみたいだね、欲しいのは」
「そ、そっすね。強欲なもんで。てへぺろ」
「僕としてはよければいつまでも働いてもらいたいよ」
「マジっすか?!」
「うん。君が来てから、お客さんもたくさん来てくれるようになったし、君のセンスも光るしね」
「ふーん……」
褒めたのに、彼女は詰まらなさそう。
「ま、ウチ、こんなじゃない? 見た目だけでもう、雇ってくれるところって、なかったんすよ。だからまあ、雇ってもらえた時にはうれしかったっすよ」
「フフフ……」
「なんすか、変な笑いして?!」
「いやあ、そう思うんだったら、せめて服装くらいちゃんとしたらいいのに」
「店長もそれいうっすか! ウチのポリシー? だし、このファッションは! 変えるくらいなら雇ってもらわなくていいっつーの」
「そうだね、箱崎君にはそれが似合ってる」
「マ?! 店長、分かってるぅ」
ヒューと、口笛鳴らす彼女は、僕の背中をバンバン叩いた。
距離感が近い彼女は最初から僕を男扱いしていないかのようだったけれど、最近は特にスキンシップも激しい気がする。
「ウチ、ここで働けて良かったすよ。お客さんはいい人ばかりだし。かわいいものに囲まれているし。何より店長、いい人だし。みたいな?」
「ふーん……」
開店準備の時、何気なくいってもらったこと、僕は忘れていない。
そのときは照れて向こうを向いてしまったけど。
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