第5話

 仁太は玄関先で俺を美紀子から受け取った。


 部屋に戻ると息子と娘たち三人しかいない。


 棺の上には手紙が置いてある。目を真っ赤にして泣いている娘2人。


 どうしたんだこの数時間の間に何があった。

「美紀子さんの慰謝料を分割にさせて長い間払わせて父さんの子を堕胎した分も引いて支払いを無理なくさせたってさ、どこまで優しい人なんだよ」


 そうなのか?


「いんや、美紀子さんに自分が妻帯者をもった男に手を付けたことを長年かけて後悔させるためだよ、ははっ!」

 一果の笑い方が詩織に似ている。


「美紀子さんに父さんの骨壷を渡してください、ってさ。んで返却されたらってことまで書いてるんもんな」

 で、返却されたら? 俺はどうなるんだ?


「棺に入れてくれってさ」

 仁太は俺の骨箱を軽く叩いた。


 許してくれたのか、詩織。


「私のそばで一生反省してなさい、てことかしら」

 ゾッとした。やっぱり一果は詩織に似ている。だがこんな腹黒いところは見たことがない。俺のいない時に子供達の前ではそういう顔をしていたのか?


「いや後から父さんにお前ばかり良い棺に入って、て言われるのが怖いんだろうな」

 ……仁太。

 お前は詩織を、母親のことを好きだったもんな。


 すまなかった。詩織にキツく当たってしまったのも仕事のストレスで。お前たちを養うために仕事を必死で頑張って。


「遺言通りだ、入れてやろう」

 涙声の仁太が俺の骨箱から骨壷を出した。

 そして棺の蓋を開けたがすぐに閉めてしまった。


「ダメだわ、ヒョンさまのうちわ入れてる所棺の中に父さんの骨壷って……」

 ヒョン様……あの韓流スターか。まだ好きだったのか。俺には見せない惚れ惚れした顔で見ていやがって。


「やっぱ入れるのやめようよ」

 三佳、なんてことを……。

「だな。父さんよりもヒョン様だろ」

 仁太!

「そうね!」

 一果!

 いつもの骨箱に戻された。その箱の中で息子と娘たちの笑い声を聞き、その中に今までいなかった妻も交わり俺は蚊帳の外の気分だった。


 終


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【KAC20243】綺麗な箱 麻木香豆 @hacchi3dayo

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