第4話

「孝光さん、もう20年前のことよ。私たちの関係」

 と美紀子の声が室内に響く。


 やはりここにきたか。

 2人の密会場所のカラオケボックス。


 歳を重ねても美紀子の歌声、音程の良さは変わらない。

 詩織は下手だったからなぁ。


「あんときは大変だった……慰謝料や裁判の費用とか会社もクビにはならなかったけど居場所無くなって辛くて辞めた」


 時間がなくて間奏の合間に美紀子は時折会話をしてくれた。まるでその時のようだ。


 20も年下の君は俺の世代の歌もよく歌ってくれた。たまに歌ってくれる若い子達の歌も聴いててたのしかった。


 俺の歌にも合いの手をしてくれて。


 でも思えば君との時間を家族に費やせばこうやって美紀子は辛い思いもしなかったし俺も骨ごと家族から追い出されることもなかったのに。


「でさ」


 歌はもう始まるのにどうした?


「親からも勘当されるし、仕事もまともな仕事つけなくなって貯金も無くなって住む場所もボロ屋。唯一助けてくれたばあちゃんが住んでた家をくれたからなんとかなったんよ」


 美紀子の語る裏ではカラオケの音楽のメロディが流れる。捲し立てるように少しずつ早口にラップのように。

 韻は踏んでいないけど。


「あんたの子供も流れてわたしの若い人生もボロボロにされて。悔しいったらありゃしないよ」

 すまん、本当にすまん。


「バカにしないでヨォおおおおおっ!!!!」

 キーン!

 とマイクの割れる音、聴いたことのない美紀子の罵声。


 老後資金のために貯蓄しているせいで食事はファミレスでも喜んでくれた。

 ラブホも高くてな、車でも大丈夫だよって言ってくれた。時にはカラオケボックスでも。



 美紀子の荒れた息遣いをマイクが拾う。

「あースッキリした」


 あの時もそうだった。仕事に不慣れだった君をカラオケに連れて行ったらスッキリした時の笑顔、それに俺はやられたんだ。


「やっぱ返すわ」

 えっ?


 きっともし俺が生きていたらこのえっ、のエコーがずっとこの部屋の中で響いていたかもしれない。


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