第3話
……俺は実は50を前に仕事場で倒れた。過労死だった。
働き盛りだった俺はなにも用意もできなかった。一果が大学生で仁太は高校生、三佳がもうすぐに高校生で。大変だったろうに。
だが学資保険でなんとかなったろうけども教育費以外は賄うのは大変だったに違いない。詩織はよう働いてくれた。
「お母さん嫌がるんじゃないの、あんなおやじと一緒に墓に入れるなんて。棺や御墓台もろもろはお母さんが汗水流して働いたお金を貯めたやつなんだから!」
……え、俺の貯めたお金はどうしたんだ……あぁ、俺が死んだから生活費に回したんだろうな。
「親父、母さんに口出しばかりしてなにも手伝わないで。仕事仕事ばかり言って逃げてたしな」
……。
「……じゃあこの遺骨の入った箱、いつまでここに置いておくのよ」
俺は墓に入れられないまま家の仏壇の前の箱に入れられたままである。ちっさい一番安い遺骨箱にな。
あぁ、認める。詩織に対して口ばかり出して何もしなかったこと。
子供たちの前で罵ったことも。だがしょうがなかったんだ。お前らを養うために必死だったんだ。
そんなことを言ってももう遅いか。ごめんな、詩織。
「あと骨箱も私たち兄弟で折半してお母さんの選んだかわいいやつにしたけど見てみてー」
と三佳が出してきた。あぁ、俺よりも立派で美しい。
そこに一人だれか入ってきた。
……美紀子。
「奥様のご焼香しに来ましたわ」
俺の愛人でもあった美紀子。
早くに夫を亡くした彼女とは仕事を通じてであったわけで。三人目を産んだ詩織が拒むもので……肉体関係になっていた。
部屋の中は凍てつく。
「いい度胸しているな、あんた」
……ばれていたのか。やはり。仁太が俺の骨箱を美紀子に渡した。
「ちょうど良かった、持ってってくれ。そしてもう来ないでくれ」
「ほんとちょうど良かった、ほんとよかった」
「ほんとね、ほんと」
一果と仁太は美紀子と骨箱を睨んでいる。三佳は泣いていた。
三佳を特に可愛がっていたからな。
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