☆KAC20242☆ 外からの移住者

彩霞

外からの移住者

 とても小さな「彼ら」の生活する場所は、自然界である。

「彼ら」にとっては、大地とはとても大きな場所だ。そして、厳しい環境でもある。


 自然はお互いを助け合うこともあるが、そうではないことも多い。今の「彼ら」は、まさにその厳しい状況に直面していた。食糧が少ないのである。

 よって「彼ら」は食糧を安定して手に入れられる、新しい「住処すみか」を探さなくてはならなかった。


 ただ、とても小さな「彼ら」にとって、移住はそう簡単なことではない。

 どうしたものかと考えてはいたが、うかうかしているうちに、住処のすぐ近くにが建ってしまった。万事休ばんじきゅうす。


「こんなんじゃ、わしらは仲間を増やすのは難しいぞ」

「どうしたものか……」

「何かいい方法を考えねば……」


 長老たちがうんうんうなっていると、若者が巨大な何かを指さして、突飛なことを言った。


「いっそのこと、あの建物の中に入ってみるのはどうでしょうか?」


 長老たちは怪訝けげんそうに返した。


「何だって?」

「馬鹿なことを」

「どうして建物の中に入ろうなどという発想が出てくるのだ」


 すると若者は言った。


「ここにいたところで、私たちはこれ以上繁栄はんえいできません。食べ物が少なすぎるんです。長老たちも分かっているじゃないですか」


 若者のうったえに、長老たちはしゅんとした。


「でもなあ……ここでさえ食べ物が少ないというのに、あっちにわしらが食べられるものがあるとは思えんがなぁ」

「では、有志ゆうしつのります。それなら、失敗しても痛みは少なくてすみます。逆に成功すれば、皆を食糧のある地に導くことができます。どうでしょうか?」


 長老たちは顔を見合わせ、渋い顔をしたが、これも種族を残していくために必要なことだと腹を決めた。


「分かった。ではお前に任せよう。どうか無理はせずに……」

「はい」


 若者はしっかりとうなずいた。長老たちが、自分を含めた有志たちを気にかけてくれただけで十分である。

 若者は早速周りに声を掛け、新しい住処すみかを探しに行く者たちを集めると、大きな建物に向かった。


「よいしょ、よいしょ……」


 彼らはとても小さい体をしているので、建物の中に入るだけでもやっとのことである。だが、数日かかって何とか入ると、そこからはおいしそうなにおいがした。


「もしかすると、ここに俺たちが求める食べ物があるかもしれない……! 皆、頑張れ!」


 若者は後続に声を掛けると、ずんずんと進んでいく。時折、巨大な動く生き物が行ったり来たりして空気を混ぜるので、そのたびに仲間たちは風に乗って、別々の場所へ飛ぶ。

 だが、こんなことは自然界でも日常茶飯事だったので、彼らにとってはへいちゃらだ。寧ろ、強い風が少ないので、飛ばされたとしても仲間同士意外と近くにいるので安心できた。


 ……と、そのときである。


「うん……⁉」


 若者がたまたま飛んだ場所には、とろりとした液体が残っていた。食べてみるとおいしい。

 彼は仲間に呼びかけた。


「おい、ここに食べ物があるぞ!」


 すると、一斉に仲間がむらがった。


「なんだって!」

「本当だ!」

「おいしい!」

「何これ!」


 仲間たちがおいしそうに食べる。


「やれやれ、どうやらおいしい食べ物がここにはあったらしい。ここで繁栄することができそうだぞ」


 若者は安心してそういうと、仲間に伝達し、さらにここに仲間を呼び寄せた。

 ここにはいつでも食べ物がある。

 そして、彼らは一気に増殖していった。


*****


 その日、明美は風呂掃除をするところだった。


「最近、お風呂に入るたびに黒いカビが気になっていたのよね。新築だっていうのに、どうしてこうもカビがえるのかしら?」


 そう言って、彼女はカビ〇ラーをシュッと吹きかけ、増殖したカビを撃退したのだった。


(完)



<豆知識>

*お風呂場や洗濯機の中に生えるカビは、洗剤や石鹸せっけんを栄養にしているものもあるそうです。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

☆KAC20242☆ 外からの移住者 彩霞 @Pleiades_Yuri

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ