リフォーム分譲ダンジョン【不殺】~住宅の内見と黒いあいつ~

喰寝丸太

住宅の内見と黒いあいつ

 俺は色々とあってダンジョンを所有できた。

 ダンジョンの中は広い。

 土地として有効利用しない手はない。

 分譲販売を始めた。

 もちろん、モンスターも発生地点も潰してある。


 拝島はいじまさんがダンジョンの第2階層の別荘のひとつを住宅の内見に訪れた。

 拝島はいじまさんは株トレーダーで大金持ち。

 今日見る物件も1億を超える。


 案内している俺は中学生実業家とハンターの二足の草鞋を履いてる。


「どうです」

「ふむ」


 そういうと拝島はいじまさんは隙間を覗き込んだ。

 壁紙を剥がしそうな勢いだ。


「ふむふむ」


 台所の収納を残らず開ける。

 そして閉める。

 何がやりたいんだ。


 そして持ってきた鞄からスプレーを出した。

 スプレーにはGもイチコロ、イチコロGと書かれている。

 ああ、殺虫スプレーね。


「やっていいか」

「ええ、ご自由に」


 隙間に何度も殺虫スプレーのノズルを入れてシューシュー吹きかける。

 もちろん虫なんか出て来ない。

 新築だからね。


「ふむ」

「気が済んだ?」

「住んだら奴が湧くんだろ」

「湧かないよ」

「なぜ?」


「ここはダンジョンだから。入るのは難しい」

「いや荷物とかに紛れて入ってくるはずだ」


「ダンジョンのゴミ回収機能が素晴らしいのは知っているよね」

「だが、絶対ではない」


 疑い深い人だな。

 デモンストレーションするか。


「このようにパン屑を撒くよ。みてて」


 10分ほど経ち。


「消えたな」

「そうゴミ回収機能があるからね。安心してほしい。ゴミ以外は回収しないから」

「ゴミである食材と、そうでない食材はどうやって分けている」

「冷蔵庫のところだけゴミ収拾を切ってあるんだ。他の場所は手から離れて10分ぐらいすると消える」

「冷蔵庫の中に奴が入り込むかも知れん」

「そんな話は聞いたことないよ」


「皿についた汚れとかはどうなんだ」

「皿は吸収しないで、汚れだけ吸収するよ。この別荘の売りのひとつ」

「10分のうちに奴が出て来たら」

「昼間にはほとんど出て来ないって聞くけど」


 めんどくさくなってきたな。


「食べかすは良いとする。だが、髪の毛や垢なんかは」

「それもゴミ収拾するよ」

「駄目だ。ゼロではない」


 仕方ない。

 あれを見せるか。


「外に出てくれる」

「分かった。何か見せてくれるのか」


 畑には菜っ葉類が植えられていた。

 その菜っ葉のそばにはクマ耳スライムがいる。

 菜っ葉についた虫がいると、クマ耳スライムが捕食する。


「彼らは虫取り名人さ」

「素晴らしい。うちの家にも一匹ほしい」

「契約してくれるなら、サービスで1匹つけよう」

「ああ、どこに判を押せば良い?」


 うお、1億円の物件が売れた。


「ちなみにお買い上げの決め手は?」

「そんなの奴が出て来ないに決まっているだろう」

「そういうと思ったよ」


 ほんと色々な人がいるな。

 あれを見せなくて良かった。


 俺のスキルはリフォームなんだけど。

 死んだばかりの死体にこれを掛けると生き返る。


 Gにもやっちゃったんだよね。

 Gをハンターにすれば虫とか食べてくれると思ったから。

 でもただ生き返らすのでは芸がないし、敵味方の区別がつかない。

 味方のGは形をポリゴンにしたんだよね。

 それも初期のポリゴンゲーム機みたいなポリゴン数。

 カクカクしてるからロボットみたいだ。


 拝島はいじまさんと帰る途中、ポリゴンGと出会ってしまった。


「むっ、あの虫はモンスターかね」

「そんな感じ。テイムしてあるから味方なんだ」

「ロボットかなとも思ったのだが。このフォルムなら嫌悪感はないな」


 ポリゴンGが飛んで、拝島はいじまさんの顔に張り付いた。


「むっ、他所へ行ってくれたまえ」


 拝島はいじまさんはポリゴンGを手で摘まむと放り投げた。


「こ、この感触は紛れもなく奴。うぎゃあ。スプレーはどこだ?」


 拝島はいじまさんは走り出して、出会った香川かがわさんに抱き着いた。

 香川かがわさんは元芸能人で美人だ。


「お客様、お戯れは困ります」


 そう言うと香川かがわさんは拝島はいじまさんの腕を捻り上げ、地面に捻じり伏せた。



「落ち着いて、もういないから」

「もしかして奴の系譜か?」

「うん。契約を破棄する?」

「テイムしてると言ったな。奴を近づけなければ問題ない。香川かがわ女史、腕を放してくれ」

「セクハラは許しません」

「もうやらない」


 拝島はいじまさんは起き上がると服の土を叩いて落とした。

 そして。


香川かがわ女史、結婚してくれ」


 いきなりプロポーズを始めたぞ。


「理由を聞いても?」

「奴の感触が綺麗さっぱり消えたのだよ。これは画期的だ。いつもなら新たなトラウマになって、怯えて過ごさねばならん」

「奴?」

香川かがわさん、カサカサ動いて飛ぶ黒いGのことだよ」

「ゴキブリですか。あんなもの新聞紙で叩けばよろしいじゃないですか」

「ますます惚れた」

「客とは恋愛関係にならない主義なのでお断りします」

「ああ、一度でオッケーを貰えるとは考えてない。また来る」


 結婚の切っ掛けがGなんてのをGを嫌いな人が許容してしまうのか。

 分からない。

 恋とか愛が分からない。

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