夜の内見会
RIKO
夜の内見会
「これが最後の物件です」
不動産屋は、若い恋人たちに案内した一軒家のドアを開けた。家は二階建てだったが古く、壁紙は剥がれて古びていた。
「えっ、もっといいところはないの?」
彼女はがっかりした声で言った。都会を離れて隠れ家のような喫茶店を開きたい。そして、結婚。二人はそんな夢を描いていた。彼女は彼氏の手を思わず握りしめた。
「すみません、でも、こんな田舎で喫茶店をしても店には客は来ませんよ。でも、この家にはひとつだけ特別なものがあります」
「特別なもの?」
彼氏は不動産屋の言葉に興味を示した。
「それはね、夜になると見えるんです」
彼女は驚いた顔をした。
「まさか……幽霊?」
彼女と顔を見合わせから彼氏は、不動産屋に言った。
「あなたは、俺たちにその幽霊を売り物にして喫茶店を開けって言うんですか」
不動産屋はにこりと笑って言った。
「もし、興味をお持ちなら夜の内見会を開催いたしますが、いかがでしょうか」
* *
夜になって、恋人たちは再び古い一軒家にやってきた。
彼女が彼氏に言った。
「ねえ、幽霊が見える喫茶店なんて、止めた方がいいんじゃないの」
「でも、ぼくも普通の喫茶店じゃ客がこないと思うよ」
すると、カンテラを手にした不動産屋が家の中から出てきた。
「電気が止まっているもので、暗くて済みません。お二人とも二階に来てもらえますか」
不動産屋は恋人たちを二階の部屋へ案内した。そして、二階にあった天窓を大きく開いた。
「さあ、見てください。ここから見える特別な景色を」
恋人たちは天窓を見上げた。そして、そこから差し込む幾重もの光に気が付いた。
「星だ……」
天窓の上に見える天の川の煌めきに、恋人たちは歓声をあげた。それは都会では決して見ることのできなかった美しい星空だった。
「どうです? この部屋は? お気に召しましたか」
恋人たちは、天窓から見える星空を見ながら、幸せそうに微笑んだ。そして、この家は彼らの夢を叶える場所になった。
了
夜の内見会 RIKO @kazanasi-rin
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