魔術学院の問題児~赫翼の魔女オルティナは英雄譚を紡ぎたい~
おるたん
プロローグ
「次、オルティナ」
クレオ魔術学院の入学試験の最終科目である、実技試験。名前を呼ばれたオルティナは、目を輝かせ「はい!」と返事をすると、位置について杖を構えた。
試験内容は基礎的な内容である的当てだ。攻撃魔術の練習をする際には、よくこれを行う。しかし基礎的ではありながら案外難しく、正確に的の中央を狙おうと思ったら、精密な魔力制御が必要となる。しかもこの試験では的がまばらで、オルティナより前の受験者は、よくて半分命中、と言ったレベルだった。
——けど、そんなのオルティナにとっては些細な事。
一言「光よ」と唱えながら杖を振るうと、生成された光の剣がすべて的の中央目掛けて真っすぐ飛んでいき、それを貫いた。
結果を見て、オルティナは満足そうに鼻を鳴らす。
うまくいった。魔力制御は得意分野だが、それでもうまく決まると気分がいい。
筆記試験のほうは自信があるので、後は結果を待つだけだ。
試験の結果はすぐに伝えられた。
結果は合格。クラスは才能を認められた者のみが振り分けられるシエラ。自分の実力に圧倒的な地震を持っているオルティナは、当然の結果とでも言いたげに、結果の記された紙を机に置く。
「オルティナ、その顔は——」
「うん、合格だったよ。クラスはシエラ」
「流石だな。しかしまさか、本好きが転じてここまで成長するとはな」
現在十二歳のオルティナは、本が好きな普通の農家の子だ。とは言っても親とは似ても似つかない赤茶色の髪に赤い瞳の、養子である。
「お父さんがいっぱい本を買ってくれたからだよ」
「ハハッ、それなら頑張って集めてきた甲斐があったってもんだ」
オルティナの父、オーガストはわしゃわしゃとオルティナの頭を撫でる。
「来月からだと、家を出るのも余裕をもってもう数日後ってところか」
「うん」
「そうか。じゃあ、もう渡しちまうか……」
そう言ってオーガストは部屋の時計をどけて地下室の扉を開けると、そこから一本の杖と短剣を持ってきた。
「これはお前の母さん……になるはずだった、俺の妻が持ってたモンだ」
赤黒い杖は、恐らく竜の素材から作られたものだろう。実物は見たことないが、本に書かれていたものに特徴が似ている。少し禍々しい雰囲気を醸し出しているが、桃色の魔石や黒に白いラインの入ったリボンがついていたりと、結構可愛らしい。
短剣の方も薄っすら桃色がかった刀身に柄頭には猫を模したアクセサリーと、恐らくどちらもオーダーメイドの物なのだろう。
「俺にゃ詳しいことは分からねえが、どっちも竜の素材から作った世界に一つの武器だ。使いこなすのは難しいらしいが、使えれば最強の武器になる、なんて言ってたな」
母の話はたまに聞いていた。貴族出身だがたまたま修行先で出会ったオーガストに惚れ、駆け落ちして今の村に来たらしい。幼い頃から魔術の天才と謳われるような人で、最後は一体で軍に匹敵すると言われる赤竜と相打ちになって死んだと。
そんな偉大な人が使っていたものを受け取るとなると、流石のオルティナでも緊張で手に汗がにじむ。
「あいつは、子供が出来たらこれを引き継がせるんだっていつも言ってた。俺にとってお前は大切な娘だ。きっと、あいつも許してくれるだろうさ」
「……ありがとう」
オルティナは杖と短剣を受け取る。まだ小さいオルティナの身の丈には合わないが、持てばすぐに使いこなせれば、夢に近づけると確信できた。
「試しに使ってきてもいい?」
「ああ、行ってこい。ただ、気を付けるんだぞ」
「わかった!」
杖と短剣を抱きかかえ、オルティナはすぐさま魔術の練習場所にしている、赤竜との戦闘跡地に向かった。
「光よ」
到着してすぐ、オルティナは一言唱え、少し重い杖を両手で振るう。まずは入学試験で見せたものと同じように十本の剣を、それぞれ木に掘った的目掛けて飛ばす。
剣は真っすぐ的に向かい、そして的にしていた木を貫いた。
「なっ……」
オルティナは驚愕で目を見開く。いつもと同じ感覚で使ったこの魔術は、木を貫けるほどの威力はない。出来ないこともないが、相当な魔力量と集中力が必要だ。こんな、試し撃ちで出来るようなものではない。
はたと我に返ったオルティナは、もう一度魔力と威力を抑えて、同じ魔術を使う。
すると今度は調整に失敗したのか、見るからにいつもより小さい剣が生成され、的にも当たらなかった。
難しい。いつも以上に細かい魔力制御をしなければ使いこなせない、しかも使いこなさなければ危険な杖だ。
「ちょっと、封印しようかな」
自分の魔術には圧倒的な自信を持っていたが、それが少し砕けた気がした。
それから入学まで、オルティナは魔術の基礎的な訓練に励んでいた。
魔術学院の問題児~赫翼の魔女オルティナは英雄譚を紡ぎたい~ おるたん @cvHORTAN_vt
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