こんな不動産屋は嫌だ
薮坂
コント「不動産屋さん」
「はぁー、春からいよいよ新生活かぁ。とりあえず住むところ決めないとな。あんまり高いところには住めないし、かと言ってボロすぎるのもなぁ。とりあえず不動産屋に入ってみるか。あの、すみませーん」
「しゃーす! ようこそ軽井不動産へ! お客さん、今日はどういった用件すかー?」
「想像以上に軽い人が出て来たなぁ……、大丈夫かここ?」
「あ、全然大丈夫っす! これキャラなんすよ! 不動産屋って何か重々しいイメージあるでしょ? だからもっと身近に感じてほしくて!」
「いくら身近にって言ってもさぁ……、限度ってもんがあるでしょ。決して安くない契約するんだし、何か信用できる気がしないと言うか、軽すぎると言うか」
「それも大丈夫っす! 僕、オフん時は薄暗い部屋の片隅で自己嫌悪に陥りながら世界に呪詛を吐き散らかしてるんで! ね、重々しいでしょ!」
「求めてる重さの質がなんか違う!」
「で、今日はどういった御用で? あれすか? 春から新生活だから新居探したいなー、的な?」
「あぁ、そうなんですよ。実は4月から
「なるほど、そうじゃないかと思ってたんすよ! 遠久野市の物件っすね、もうすでにいくつか用意してます!」
「もうすでに? なんか余計信用できない気が……」
「まずはお客さんの希望を訊いてもいっすか? 駅チカでーとか、家賃はいくらまででーとか、バス・トイレ別でーとか色々ご希望ありますよね?」
「まぁあるにはありますけど、希望を重ねると家賃高くならないですか?」
「まずは言ってみてください! 言うのはタダですから! まぁ聞く僕の方は1文字1000円もらいますけど!」
「1文字1000円⁉︎」
「いちにぃさん……、今ので1万円っすね! 10文字!」
「今ので取るの⁉︎ まだ希望言ってないし! それに『⁉︎』までカウントされてんじゃん!」
「まぁ、ルールだから仕方ないっすよね。小説の公募にもあるでしょ? 文字カウント方法。あ、カギカッコはおまけしてますから!」
「そんなおまけいらない! カギカッコも意味がわからない! もうこっちの希望は言わないからそっちで何か提案してよ!」
「うーん、それじゃあこれなんてどうです? 家賃5万円、駅チカ徒歩1分で築2分」
「築2分⁉︎」
「この物件の欠点はバス・トイレ別なんすよ。バスは遠久野駅南側のロータリーに行かないとですし、トイレは駅員さんに言って駅のトイレ借りないとなんすよねー、それ以外は完璧なんすけど」
「完璧の意味知ってる? まずバスよバス! それに築2分って何⁉︎」
「テント設営に2分掛かるってことっすよ。あ! 初心者でも安心! ポンって開くワンタッチテントですから!」
「そこ心配してないなぁ! なんでテントなのよ!」
「いやぁ、実は狭くて。駅に上がるまでの階段なんすよ、設営スペース。正確に言うと地下階段の踊り場すね」
「駅チカの意味よ! 駅地下じゃんそれ!」
「お気に召さないすか?」
「当たり前だよ! 誰が許してくれんのよ、そこでテント張るのを!」
「仕方ないなぁ。じゃあこれなんてどうです? 駅ナカでガラス張り、めちゃくちゃオシャレな部屋っす。空調完備、さらに家具付きでトイレも近い! 今なら時刻表のポスターまで付けますよ!」
「それ駅の待合室ゥ! 公共スペースだよ! プライベートも何もないよね⁉︎ 通勤客に丸見えつーか客入ってくるよ!」
「でもー、オシャレなホームっすよ?」
「ホームってそれプラットホームのホームだねぇ! それに家具付きって絶対イスだけじゃん! 必要以上に並んでるの想像できるな!」
「ベッドにもなるっすよ? 連結してるし」
「泥酔客だけかなぁそこで寝るのは!」
「んー、これもお気に召さないすか?」
「それ以前の問題だって! もう駅周辺にこだわらないからマトモなの紹介してよ!」
「仕方ないなぁ。じゃあちょっと駅から遠くなりますけど、これなんてどうです? 駅まで徒歩13分、築4年。家賃は42731円でバストイレ完備、プラス415円でなんと同居人付き!」
「待て待て色々おかしいぞ! 不吉な数字が並んでる! 家賃なんて『
「ほら、新生活って寂しいし不安じゃないすか? それを同居人が埋めてくれるんすよ! しかも24時間常駐タイプで置き配にも対応してくれますよ!」
「いやコンシェルジュみたいに言われてもさぁ! て言うかそれ絶対ヤバいヤツだよね!」
「一応規則なんで重要事項説明しとくとですね、同居人はお客さんによって『見える人』と『見えない人』がいて──」
「絶対霊的なナニカだと思ったよ! もうそれ事故物件じゃんか!」
「いや、本人からは無事故無違反のゴールド免許って聞いてんですけどねぇ?」
「免許持ってんの⁉︎ 何の免許よ!」
「玉掛け免許っすよ。魂のタマとかけてんですって!」
「1ミリも面白くないねぇ! 何でそんな笑ってんの怖!」
「……はぁ、それじゃこれもお気に召さないと。んー、参ったっすねぇ。もう残り少ないつーかラストっすよコレ。えーっと駅から徒歩15分、築年数は6年。バス・トイレ別でオートロック付き。3階南側の角部屋で、日当たりも良好っすね」
「おぉ、聞く限りは普通じゃん! でもアレでしょ? 決定的な瑕疵があるんでしょどうせ⁉︎」
「いや、そう言うのもないっすね。ごくごく普通の物件です。面白味がないつーか、フツウ過ぎてつまんねーっていうか」
「住宅に面白味なんていらないのよ! そこ見せてよ詳しく!」
「じゃあ内見します? この物件」
「え? そこ
「お客さん、今はVRの時代っすよー? リモート内見できるに決まってんじゃないすか! そんじゃこのゴーグル付けてもらえます? ちょっとキツいかも知んないすけど」
「……キツいっつーかこれ海女さんが付けてる楕円形の水中メガネだねぇ! 鼻も一緒に入れちゃうレトロなタイプのヤツね! どう考えてもディスプレイじゃあないッ!」
「右側面のボタン押すとVRモードになるんすよ。どうすか? 見えてます?」
「え、これホントにVRゴーグルなの? 半透明ディスプレイってすげーなコレ! お、確かに見える見える……って部屋めちゃくちゃ和室で真ん中に老婆が見えるんですけど!」
「え? 老婆?」
「こっち見てる! え、怖い怖い何か笑ってるよ!」
「あーすいません、それヴァーチャンリアリティでしたわ」
「
「僕の婆ちゃんなんすよー、田舎の。ネット回線でカメラ繋げてて。最近VR越しでしか会ってないんすけど、今日も元気そうで良かった! でもお客さんちょっと失礼じゃないすか? 人の婆ちゃんを怖いだなんて」
「明らかそっちのが失礼だねぇ! 何だよコレ、まさか
「いや、爺ちゃんはもう亡くなってて……」
「あぁ何かゴメン! それは本当にゴメン!」
「いやいいんすよ。爺ちゃんとは心ん中で会えますし。それに僕が仕事頑張ってるって、きっと天国から見ててくれてますから」
「見かけによらず好青年かよクソッ! 思わず契約しそうになったよ!」
「すいませんお客さん、逆の左側面のボタンでした。それ押すと紹介したい物件のVRが始まりますんで」
「……おっ! 見えた見えた! へぇ、結構広いねぇ! 確かに日当たりも良いし、角部屋はポイント高いなぁ!」
「どうすか? いい感じでしょ?」
「悪くない悪くない! クローゼットも広いしキッチンも使い勝手良さそうだなぁ。駅まで徒歩15分だっけ? まぁ運動には良いかもだよな!」
「でしょ? でしょでしょ?」
「これベランダにも出られるの?」
「モチロンっすよ! 外の景観もVR再現してますんで!」
「おぉー、ベランダも広い! ここ気に入っ……いや待て待て目の前に高架橋あんじゃん! めちゃくちゃ電車走って来るじゃん! 近ぇ! うるせぇ! 何か揺れてるし!」
「あ、今僕がお客さんの体揺らしてます! VRのリアリティ感出そうと思いまして!」
「いらないよそれ! なんか酔うからやめて! て言うかVR内見前に説明しとけよ電車が目の前通るって! なんだよこの電車‼︎」
「えっと、JRっすね!」
「うわぁしょーもない! なにドヤ顔してんのよ! 半透明ディスプレイが憎いし全然上手くないッ!」
「てことはここもお気に……」
「召すワケあるか! もういいよ、俺帰るからな!」
「電車で?」
「あぁ、電車だけど?」
「そんじゃ最寄駅の地下階段の踊り場にテント部屋と、ホームにガラス張りの部屋がありますんでよかったら内見してって下さい! ウチ、各駅に物件持ってるんで感じは掴めると思います!」
「いや絶対に住まないからね⁉︎」
【終】
こんな不動産屋は嫌だ 薮坂 @yabusaka
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