鬼軍曹が脳筋系聖女様にTS転生したら護衛は乙女系男子

卯月らいな

鬼軍曹が脳筋系聖女様にTS転生したら護衛は乙女系男子

「聖女様がこの町にお忍びに来ているって本当か?」


「ええ、信頼できる筋の情報ですぜ、アニキ」


俺たちは悪の組織、ウサギノシッポ団。


金儲けのためならば手段は選ばない。


聖女様を誘拐して売りさばこうと計画していた。


以前から、この地区に聖女様が出没するという情報を収集していたがビンゴのようだ。


「聖女様っていうと、未来の勇者様になる子どもを産む運命を背負われたお方でしょう?」


「そうだ。だから、自分ところの王国から勇者を輩出しようと各地の王が争奪戦のように招致しているんだ。だが、当の聖女様は、『己の限界に挑戦したい』なんて、よくわからないことを言って自由きままに生きているらしい」


「生意気な女ですね。力づくで自分が女だってことを思い知らせてやりましょうよ」


「さて、捕まえたらどう料理してくれようか」


☆ ☆ ☆


僕の名前はアルト、王国の近衛兵。


かわいい小物やお人形、騎士道物語が好きなロマンチストだ。


王様に命じられて聖女であるアリシア様を護衛している。


今日も宿でいつものトレーニングをしていた。


「聖女様ぁ。僕、そろそろ限界です。やめませんか?」


「いや、あと、30回を3セットよ。スクワットは大腿筋を鍛える効果があって、全身の代謝量を増やすんだから。ダイエットにも効果があるわよ。さあさあ、続けて、どうしたの?疲れてるふりがうまいわね」


「うぐぐぐぐ……」


アリシア様は未来に勇者様をお産みになる神聖なお方。


花も恥じらうか弱い乙女……かと思っていた。


ところが、会ってみてみれば、とんでもない筋肉至上主義者、筋トレの鬼だった。


3日に1回、筋肉が超回復したら、こうして腕立て腹筋背筋スクワットをさせられている。


聖女様は朝晩のジョギングなども常に欠かさないので寝不足だ。


鶏肉を好み良質のたんぱく質を摂取することをモットーとしていた。


綺麗で素敵な人だから、女らしく生きていればいいのに、神聖魔法の知識を蓄えていればいいのに困りごとは基本的にパワーで解決したがる性分だった。


あまりに神聖魔法を覚えようとしないので、僕の方が普通は女性が覚えるような回復魔法を身に着けて、聖女様の戦いの傷を回復させている始末。


これじゃあ、どちらが聖女なのかがわからないのだった。


だが、そんな男らしい聖女様に僕は恋していた。


「いい汗かいたわね。着替えるわよ」


「わわっ。ご婦人が男性の前で脱いではいけませんっ。部屋出ていきますね」


男らしすぎて振り回されっぱなしだ。


翌日、街歩きに飽きられた聖女様は鷹狩の準備をすべく、お城にお戻りになることになった。


「聖女様。サンドイッチをもって森のピクニックなどしませんか?なんでそんなハードな遊びをなさるのです。しくしく」


「狩猟本能は哺乳類に刻みこまれている大事なものよ。鷹を使って獲物を追い込む技術は、一種の軍事シミュレーションね」


「そんなことは我々軍人にお任せください。聖女様が傷つかれたら私の責任になるのですから」


「あんたが回復して傷なんて隠せばいいの!大丈夫、あんたヒーラーとして一級品だから」


こんな調子で聞く耳を持ってくれない。


森の街道を行くとしばらくして、聖女様はきょろきょろする。


「ちょっと、排尿してくるわ。ちょっとここで待ってて」


「聖女様っ!お花摘みとか乙女な言い回しをしてくださいっ」


「細かいこと気にしないでよ。じゃあ、行ってくる」


「まったくもう!」


僕は、聖女様を待つことにした。


しばらくして、違和感を感じる。


誰かが近くに居るような。


「誰だっ!」


声をあげたときは遅かった。


首元に冷たいナイフを突きつけられていた。


「動くなっ。聖女様。我々、ウサギノシッポ団が確保させていただきましたぜ」


「アニキ、変ですぜ。そいつ、確かに女みてえな顔をしているけど、兵士の服を着ていますよ」


「バカ!お忍びで旅しているんだから、男装の一つや二つするだろ!バカだな」


どうやら、僕のことを女だと聖女様だと勘違いしているようだ。


アリシア様の身の安全を思えば、演技するしかない。


「いかにも私はアリシアです。乱暴な真似はおやめなさい」


「ほら、聖女様だって言ってる!さあさあ、アジトに連れてくぞ」


☆ ☆ ☆


俺の名前は剛田大輔。


日本では大輔という名前は、野球が好きな父親が団塊ジュニアの子供に良くつける名前らしい。


自衛隊陸軍で鬼軍曹と呼ばれていた。


筋トレと軍事シミュレーションの鬼で特殊部隊に所属していたこともある。


そんな俺だったが、紛争地帯に食料物資の輸送をしている最中、テロリストに襲われ、命を落とした、かと思っていた。


俺が目を覚ますと、「アリシア様」と呼ばれていた。


どうやら、俺は、この世界で聖女と呼ばれる存在に転生してしまったらしい。


俺が、この世界に来て、やり始めたのは筋トレと食事管理だった。


女の身はか弱く狙われることが多い。


そこで、自分の身は自分で守るべく、体を鍛えることにしたのだ。


この世界では、魔法を覚える護身術もあったらしいが、そんなまどろっこしいものは覚えてられない。


筋肉こそすべてなのだ。


そんな日々を過ごし、今日も、護衛のアルトを連れて、城に帰ろうとした道中、小便をだらだら垂らして、戻ってきたらアルトがいなかったのだ。


「アルト!どこ行ったの?」


申し分程度の女言葉でアルトを探すがどうやらいないようだ。


俺は、あたりを見渡すとおかしなものが落ちているのを見つけた。


ウサギのマークがついたバッジだ。


何かヒントになるかもしれない。


俺は、盗賊ギルドに単身で乗り込んだ。


「ねえ。あなたが情報屋さん?」


「ここはお嬢ちゃんが一人で来る場所じゃないよ」


警告を無視して要件を伝えることにした。


「このバッジの持ち主知らない?」


「そいつは、ウサギノシッポ団のバッジだな。聖女様の行方を最近探していた……」


「アジトを教えて!」


すると情報屋は手でお金のサインを出した。


「そいつはロハ(ただ)じゃ教えられないな。出すものは出してもらわないと。それとも、体で払うかね?ひっひっひ」


「あれ、やりたいんだけど」


指さした先には『腕相撲で勝ったら情報無料』と書いてあった。


「お嬢ちゃんの細腕じゃ無理だよ」


「やってみないとわからないわ」


俺は屈強な男たちを次々とねじ伏せた。


「お、お前は何者だ!?」


「筋肉聖女とでも読んでくださる?」


盗賊たちは恐怖におののいていた。


☆ ☆ ☆


「こいつ、男ですぜ。やいやい、聖女様をどこに隠しやがった!」


どうやらマヌケな悪漢たちもようやく僕が男だと気づいたようだ。


「言ってたまるか!聖女様は渡さない」


「くっ。こいつ。生意気だ。喋りたくなるようにしてやるぜ。拷問の方法は心得てるんだ」


裸にひん剥かれ、ムチで叩かれる。


「ひぐっ」


「さあさあ、喋れ、喋らないと、その女みたいなかわいい顔がズタボロになるよん」


僕は沈黙で答える。


聖女様を守るためなら、僕は、何だって耐えてみせる。


ムチが再びしなったそのときだった。


「待ちなさい!」


「だ、誰だ!」


「柔道2段、剣道5段!聖女アリシアと盗賊軍団よっ!」


アリシア様がガラの悪そうな男たちを従えて入り口から堂々と現れた。


「さあ、野郎どもやってしまいなさい!」


その号令を合図に盗賊軍団はウサギノシッポ団のメンバーをあれよあれよと、捕まえていった。


「さあ、私が指南したサブミッション技で生け捕りにするのよっ!」


ウサギノシッポ団はひとり、またひとりとしめ技で動けなくされ、猿轡にされる。


「聖女様っ!」


「もう!私が居ないと何もできないのね」


守る側のはずの僕が聖女様に助けられてしまった。


素敵な聖女様に胸がトクントクンと高鳴ってしまう。


ウサギノシッポ団は壊滅し、メンバーは王国の牢屋に入れられることになった。


僕は運よく護衛の任務は解かれず今日も聖女様のおそばで護衛できている。


「聖女様!僕、聖女様のためなら、なんでも頑張りますっ」


「よく言ったわ。さっそく、トレーニングよっ!」


「へ?」


プランク10回を3セット。


しっかりと筋肉を鍛えられてしまう。


「聖女様ぁ。勘弁してくださいよ~」


「筋肉さえあればなんでもできる、あと3回追加ね!」


ひいいい。


つらいけれど、聖女様とこうして一緒に居られて、僕は幸せなのであった。

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