最終話  『受け取れ』

 二百年後__


 翠こと、ティルスイザークは、正式に風竜の仲間と認められていた。

 神が、翠の存在を認めたためである。

 ティエリ山の風竜の巣に呼び出されたティルスイザークは、まだ若年ながら、堂々とした竜に育っていた。


 二百年の間に竜の長が変わっていた。

 前の長は、健在だが退いて、孫のセルティスのバックアップをするらしい。


 セルティスは、二百年前のことを詫びてきた。


『別に、良いよ。ボクもあの時は、異世界渡りの転生者の強大な力のことを知らされて無かったんだ』


『今は、ただの風竜になったのだから、大歓迎だぞ』


『本当!? 嬉しいなぁ!! でも、彼女が何というかな?』


『お前!! そんなに若くて彼女がいるのか? 俺の妹と婚礼させようとしてたのに~』


 セルティスは、二百年前の態度とは180度変わっているので、ティルスイザークは笑えてしまった。


『風竜なんだろうな? 竜族でも異種族は結婚ができないぞ』


『大丈夫、風竜だよ』


『そうか……』


 二匹の風竜は、風が運んで来たゆりかごにでも乗っているように、翼をはためかせ長話をした。



『マウラリーラというのだが!! 会って行かぬか?』


セルティスは、諦められぬようである。


『彼女が待ってる。もう帰るよ』


『そうか、では今度は彼女と来ると良い』


 セルティスは、名残惜しそうにティルスイザークのことを見送ってくれた。


 ティルスイザークは、風に乗って、ティエリ山脈を西へ飛んだ。

 ヴァーレン皇王国から一気に高度を上げて、棲み処のアルデバラン王国の上空まで翔け抜けた。


 シェラナ山の巣では、エリサルデが怒って待っていた。


『遅いわ!! 直ぐに帰って来ると言ったのに!!』


 エリサルデの淡い金色の鱗が、金色変わっている。かなりのご立腹だ。


『ゴメン、ゴメン!!風竜の巣でも世代交代が行われたんだよ。長のセルティスとは、前に色々あったから、話しが長引いたんだよ』


『ふ~~ん? それで? 妻の私を放っっておくんだ~~』


(エリサルデの様子がおかしい……?)


『どうしたんだい? エリサ? 何があった?』


 人型になったティルスイザークは、金色に輝くエリサルデの竜身の首のあたりを撫でて言った。

 エリサルデも、また人型に戻った。


『あなたは、……になるのよ』


 エリサルデは小声で行ったので、ティルスイザークには聞こえなかった。


『え?』


 聞き返す、ティルスイザーク。


『卵を身籠ったの。85日後には、あなたは父親よ』


『卵!? 85日って早くないかい?』


『風竜は、鳥類に近いのよ。地竜は、地熱で孵化させてたから、冒険者に狙われまくって、とうとう人前には出て来なくなったわ』


 エリサルデは、ティルスイザークの手を取って、まだ大きくないお腹に当てた。


『ここに私たちの子がいるわ。名前を付けてあげて。この子は受け取るわよ』


『つけたい名前は、一つしかないさ。もう一度この世界で会いたかったんだ。「トラ」とね』


 エリサルデの顔が引きつった。


『アシュレイでは駄目なの!?』


『ボクは、ずっと「トラ」と呼びたかったんだよ。受け取れ!! 「トラ」!!』


 ティルスイザークは、高らかに言った。



(完)

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転生したDKのボク、竜族になったが仲間に追放されてしまう。ボクを助けてくれたのは、人間のエセ勇者だった件 月杜円香 @erisax

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