奉行所報告録現代訳写し「長屋祟り騒ぎ 内見報告」
住礼ロー
大正二年写本版を現代訳 昭和十八年 写
件 富士み町長屋 祟り騒ぎについて
日 七の月十四
担当 同心 彦六および弥七
◯経緯
先々月より継続して訴えられていた「長屋が祟られている」という件だが、
此度に土左衛門まで出る始末となったため、
奉行所より同心二名が派遣された。
早急に収めよ
お上より有ったため、解決が急がれる。
◯実施目録
・同心二名により、該当長屋1件に夕刻より日の出まで調査。
仮眠は交代で3時間ずつとする。
・酒を飲んでいないにも関わらず、酔っ払った件の調査
・囲炉裏の火が消える件の調査
・寝ていると喉を掻きむしる件の調査
・床と壁の境目の血の件の調査
・子供の泣き叫ぶ声の件の調査
◯実施結果
・酒を飲んでいないにも関わらず、酔っ払った件の調査
夕刻、長屋に踏み入った際には彦六、弥七、共に異常無し。
囲炉裏のフチも踏み外さなかった。
夜中、彦六仮眠時、弥七より火急。「目が回る」報告。
弥七を寝かせ、彦六が見張り番に。
丑の刻頃、弥七、発狂。彦六も酩酊に酷似した症状。後述。
・囲炉裏の火が消える件の調査
夕げを弥七が作る際、「炭の火勢が弱い」と報告。
彦六も試すが強くならず。近隣より藁を買い求め火種に。
煙が多量に出たため、左隣接より罵倒。これを彦六打倒。
夜中、前述の火急後、炭の火が消えているのを彦六確認。
汗ばんでいたため、着火せず放置。
丑の刻頃、弥七起床時に囲炉裏内に転倒。その後、発狂。後述。
・寝ていると喉を掻きむしる件の調査
丑の刻頃、弥七が起き上がった際に囲炉裏内に転倒、
その後に灰まみれになりながら喉を掻きむしる動作。
我を失い、彦六を襲撃。彦六、打倒にて鎮圧。
彦六も首を締められたためか、酩酊のような状態に。
戸を開け長屋を脱出し回復。
酔っ払いの症状と密接な関係にあると推定。調査にて結論。後述。
・床と壁の境目の血の件の調査
夕刻、長屋に入った際に調査開始。
何箇所かの床と壁の境目に乾いた血痕を発見。大きさは拳に近似。
夜中前、彦六見張り番時に鮮やかな血痕を発見。いつ出現かは不明。
大きさは拳に近似。壁裏でネズミが食われたか?
・子供の泣き叫ぶ声の件の調査
弥七発狂時、「子供が泣いている」と連呼。
彦六、我を失っていると判断し弥七を打倒鎮圧。
彦六には一切聞こえず。
近隣に子供のいる者はいないはずだが、翌朝追加調査。
◯調査成果
・酒を飲んでいないにも関わらず、酔っ払った件
鶏卵を長屋室内、数カ所に鶏卵を配置。
結果、囲炉裏に向かって転がっていった。
この事から、長屋内がすり鉢状を形成していると思われる。
上記により、時間の経過で子供がふざけて行う回転遊びと
同様の症状が起きたと推定。
ただし、当該長屋室内のみ、すり鉢状を形成している模様。
・囲炉裏の火が消える件
すり鉢状形成により、火勢を増した後に囲炉裏内に溜まる気が影響か。
洋学者に後日確認
・寝ていると喉を掻きむしる件
すり鉢状室内による症状に、
囲炉裏内の気が寝ている者に届いて、
首を締められたようになって、発生か。
紐や糸による下手人の被害者にも
同様の傷が見られることから、正しいように思われる。
・床と壁の境目の血の件
ネズミの糞を確認。ただし、長屋の壁間に隙間無し。
いかなる理由で染み込んだかはわからないが、
ネズミの血だと思われる。
ただし、隣接の長屋には血は発見出来ず。
・子供の泣き叫ぶ声の件
不明。籍改めにより、子供のいる者は何件か発見したが、
皆、息を潜めていた。別録にて追跡調査報告。
折檻の事実を確認中。
なお、彦六や近隣の町人には泣き声の覚えなし。
弥七に再度聞いたところ「出して」と言っていたと証言。
◯結論
・主たる要因は長屋建築時の欠陥。
町内の大工に見積もらせたがが修復不可とのこと。取り壊しが妥当と思われる。
・補遺
折檻された子供は近所にいなかった。
天井で猫がネズミを連れ込んで食ったのが垂れたと推定も不可解。
<了>
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2024年3月8日 査読報告抜粋
──赤い血のくだりは近代都市伝説の「赤いクレヨン」に酷似。
ニセの欺瞞情報に倣った創作の可能性が高い。
(九九式暗号機が見つかったばかりに
市民を欺き続けなければならないのが、本当に心苦しい)
同様の報告録写本は継続して収集。
奉行所報告録現代訳写し「長屋祟り騒ぎ 内見報告」 住礼ロー @notpurple
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