生きている家

青切

生きている家

 その家は生きていた。生きているということはエサを与えなければ死んでしまう。その家のエサは人間だった。


 俺は暴力団が資金を出している不動産屋に勤めていた。

 身寄りのない奴や家出した人間が住処を求めてきたとき、俺はその家を紹介した。


 きょうも一匹、エサがやってきた。

「築年数のわりに、とてもきれいな外装ですね。リフォームでもしたんですか?」

 外回りを見ながら、自分の運命も知らずに、暢気なことを言っているじいさんに、俺は「ええ、まあ、そんなところです」と答えた。

「地下室まである一戸建てでこの家賃は、なにかあるんでしょう?」

 そうだ、なにかあるんだよと思いつつ、「ええ、まあ、その分、家賃がお安くなっており、また、ふつうの賃貸では審査が通らない方にもご紹介できるわけで」と俺は応じた。


 家の中に入ると、甘い良い匂いがした。

 じいさんが言った。

「壁紙の匂いですか? いい匂いですね」

 俺は答えた。

「ええ、まあ、そんなところです」

 おそらく、この家は雌なのだろうと思っている。何となく、そんな感じがするのだ。


 俺は時間がもったいなかったので、じいさんをさっそく、この家の口である、地下室へ案内した。

 俺はじいさんを先に立たせた。気をつけないと、俺が食われちまう。

 「何だか、しけっていますね」とじいさんが言ったので、「それは、まあ、地下室ですから。さあさあ、中を見てください」と、じいさんから少し離れて、地下室にしては不自然な、両開きの大きな扉を開けさせた。

 薄暗いのでよく見えなかったが、「ぎゃー」と言いながら、じいさんは部屋の中へ引きこまれていった。これで、一仕事終わりである。


 俺はこの家の二階に住んでいた。ときおり、暴力団が始末に困った死体を持って来る。それをうまく、家に食わせるのが俺の本業だった。


 困るのは、ちょうどいい内見の客もなく、暴力団が死体を持っても来ないときだ。

 家が腹をすかせると、家中でぐうぐうと不快な音がするのだ。

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生きている家 青切 @aogiri

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