生まれることが罪ならば

秋犬

生まれることが罪ならば

「こちらが先程紹介した、駅から徒歩3分物件の物件ですね」


 不動産屋の後を若い夫婦が歩いて行く。


「やっぱりこっちかな、駅も近いし」

「思ってたよりも広い感じがするね」


 新居を探しているのか、夫婦は熱心に間取りを確認していく。


「ねえ、こっちにしようよ……ギャーッ!!」


 クローゼットを開けたのちに、悲鳴が上がる。


「何があった!?」

「ね、ネズミが……」


 指さすほうに、大きなネズミの死骸が転がっていた。


「おかしいですね、クリーニングはしているのですが……大変失礼しました」

「嫌だもうここ、ネズミが出るなんて考えられない」


 そうして夫婦はこの部屋の内見を切り上げた。不動産屋は別に案内していた物件を見せ、そこに夫婦は落ち着くことが決まった。


***


 時空監視局のシノスとロードは時空艇から夫婦の様子を観察していた。シノスが夫婦の内見前に、こっそりネズミの死骸をクローゼットに隠したのだった。


「これで無事に未来は切り替わりました。この後この夫婦はすぐに離婚、それぞれ別の道を歩いていきます」


 ロードは歴史が変わったことを確認する。


「よし、これで大量殺人犯は生まれてこない。めでたしめでたしだ」


 この夫婦から生まれる子供は成長して極端な思想に傾き、爆弾テロを決行して数千人単位の人間を殺す運命になっていた。しかし歴史管理局の調査の結果、それはねじれた歴史であることが判明し、時空監査局に彼の生存をなかったことにするよう依頼がやってきたのだ。


「しかし、本当にこれでいいのかな」

「なんだ、監査局のやり方に文句でもあるのか?」


 ロードはうつむいた。


「だって、この子は生まれてくる運命になかったとはいえ、このままネズミがなければ生まれてきたはずなんだ。生まれてくることを望まれないなんて、あんまりだ」

「それを言うなら、そこで死んでるネズミだって、こいつが死んだから何千人も救われたんだ」


 シノスは黙ったロードを伴って、次の時代へ向かっていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

生まれることが罪ならば 秋犬 @Anoni

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ