不動産屋のある日常
かんた
第1話
「こちらが本日ご案内させていただくお部屋になります。間取りは2LDKでベランダ付き、独立洗面所とバストイレ別、オール電化済みでガスを契約する必要はございません。また……」
「部屋も二つあるし、広いし、いいんじゃない?」
「でも、ここと同じ間取りでもっと安いところ無いの? 流石に高すぎるんじゃない?」
「それは確かに思った! もっと安くてもいいじゃんね。なんでこんなに高いんですか?」
私が説明をしているのを遮って、目の前で二人の愛の巣を検討しているのだろう、若い男女は好き好きに会話をすると、家賃が高すぎると文句をつけてきた。
確かに、ここの家賃は高いほうだろう、それも同じ間取りどころか、部屋がもう一つぐらいあっても同じ程度の値段に出来る程度には。
それを考えれば、もっと安い部屋を案内してもいいのかもしれないが、さんざん注文を付けてきたのは二人じゃないか、と私は言いたい。
初めは、恋人同士で同棲するのなら精々1LDKでいいのでは、と紹介したら、それぞれ個人の部屋が欲しいというので部屋数を増やしたのだ。
そのうえで安いところがいいというので、出来るだけ家賃の抑えられる物件をいくつか探し、紹介してきた。
それなのに、駅から遠い、駐車場がない、ユニットバスは嫌だ、洗面所が小さい、周りに何もない、IHコンロがいい等々、要望だけを散々に追加してきたのは二人じゃないか、と叫びたい。
値段は抑えたいというくせして、なぜすべての要望を通そうとしたのだろうか。
常識で考えて、交通の便の良く、セキュリティー万全でスーパー等が近くにあるような場所は当然に高いに決まっているではないか。
そのうえでIHやベランダ、屋根付きの駐車場やそれぞれの部屋の大きさまで妥協というものを知らずに要望だけ詰め込んでは、家賃なんてものは膨れ上がるに決まっているだろうに。
もちろん、理想を追い求めるのは良いとは思うが、それは最低限、自身の財布と相談したうえで、上限はどのあたりかを把握したうえで考えてほしいものだ。
見栄を張りたいのならば好きにしたらいいが、家なんてものはどうしても安い買い物ではないのだから、自分たちでもどうしても譲れない部分とそうでない部分は決めてほしい。
それも考えず、ただ要望を出すだけでは、いつまでたっても決まらないし、仕事とはいえ徒労感がすさまじいのだ。
未だ何か話しているようだが、正直ここは現在の要望の最高峰を見たいと言うから連れてきているだけなのだから、早く会社に戻ってどこを妥協するのか決めてほしい。
窓から入り込む夕焼けを眺めながら、ぼう、と早く帰りたくなった。
不動産屋のある日常 かんた @rinkan
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