第27話 勇者の証 下

 一瞬体勢を崩したリヴィーネだったが、すぐに立て直した——、そして、手を前に出すと、無詠唱で魔法を放った。


 その魔法は見えなかった、見えない何かに、私とザイガーは吹き飛ばされた。


「重力魔法まで使えるとは」


 ザイがーが呟く。重力魔法——、そんな魔法は聞いたことがない。


「やはり知っていたかザイガー、ナタリーに教えてもらったのか?」

「そうだ、先生は、勇者がお前に殺された後、現場を隈なく調べ、リヴィーネが重力魔法を使用できることを突き止めた。ただ、現代魔法に重力魔法を防ぐ魔法は存在しない」

「そうだ、しかし、ナタリーなら、それも可能ではないかと考えていたが、どうだね?」

「ナタリー先生も、最後まで重力魔法への対応策は用意することができなかった」

「わ、は、は、は。私はついにナタリーを越したのか! そしてあいつの弟子たちを殺すことで、ナタリーの壮大な野望は打ち砕かれる。そうだ、冥土の土産に良いことを教えてやろう。私は心臓を撃ち抜かれた。しかし、まだ生きている。なぜだと思う? それはな、心臓が二つあるからだ」

「なるほど、だから死ななかったのか。もう一つの心臓は、左肩のすぐ下か」

「そうだ、よく分かったな。だが、分かったところで、お前たちは何もできぬ。あの世でナタリーによろしくな」


 リヴィーネは、魔法か何かわからない光の槍を作り出し、それを私たち向けて投げようとする。このままでは、死んでしまう。私は何か策がないかと思案しながら、ザイガーの顔を見ると、一瞬ガイザーが笑った。


直進魔法グラデス・ゲーヘン


 無詠唱魔法といえども、指に力を入れるなど微細な動作が必要で、その動作の全てを重力魔法によって防がれているザイガーは、魔法を発動できるはずがない。それなのにザイガーは、直進魔法グラデス・ゲーヘンと呟いた。


 その瞬間、墓石が光だし、2対の直進魔法グラデス・ゲーヘンが墓石から放たれ、リヴィーネに直撃する。防御に意識を取られたリヴィーネは重力魔法を一瞬解除してしまい、その隙を見逃さなかったザイガーは、一瞬にしてリヴィーネとの距離を詰めた。


 ザイガーの杖が、これまで見たこともないほど眩く光る。あれ、あの杖は、私がさっきまで持っていた永久の杖。それをいつの間にかザイがーが握っている。離れていてもわかる膨大な魔法量。ザイガーはこれまでこれほど莫大な魔力を隠していたのか。


「ザイガー、なんだ、その魔力量は——、それになぜ永久の杖を使え……、お前、まさか、お前も勇者の証を持っているのか!」

「ご名答。死ぬ前に答えに辿り着けてよかったな、リヴィーネ。騙し合いは魔族の専売特許じゃないからね」


 永久の杖から放たれた光が、一点に収束した瞬間、ザイガーはポツリと魔法を呟いた。


直進魔法グラデス・ゲーヘン


 今まで見た魔法の中で最も綺麗な線が、永久の杖からリヴィーネの心臓めがけて

 伸びていく。


 リヴィーネは全身に張った防壁魔法を心臓周辺にだけ展開し、心臓のみを守ろうとした。防壁はこの世に存在するどの魔法でも打ち破れなさそうなくらいの密度であることを肌で感じる。しかし、ザイガーの直進魔法は、そんな防壁もろともせずに、静かに心臓を突き破った。


「ああ、ああ、あああああああああああああ。私は、私は、この世界を征服して、そして、人間を全て食らうはずだったのに、己己己、ザイガーよ、お前は許さぬ。絶対に許さぬ!」


 恨み節を吐きながら、「ああ、ああ」と言いながら、リヴィーネは消失した。


 勝った、ついに、勝ったのだ。長く厳しい戦いが、ナタリーの悲願が遂に達成されたのだ。



 ‡‡‡


 王都に戻ると、王都は大混乱に陥っていた。

 リヴィーネの分身が、王や王族の振りをしていたが、リヴィーネが死んだことで、いきなり王族がこの王国から消えてしまったのだ。『王はどこだ』と、国を挙げて王を探していた。


 さらに、パウゼ家もほとんどがリヴィーネの分身体が支配していたらしく、最後残ったのは私とエーデだけだった。


 そう、エーデおばあちゃんは奇跡的に生きていた。右腕を失っていたけど、しっかり生きていてくれた。そして、ハイ爺も生きていた。ハイ爺の方は右足を失っていたが、存命だった。


 この混乱を収めたのは意外にも、ハイ爺だった。ハイ爺の本名は、ハイリグ・ハミルトン。ハミルトン王国の王族の末裔だったハイ爺は、ハミルトン王国がシュバール王国の王や王族を倒したと宣言した。当初は、ハイ爺がハミルトン王国の王族とは誰も信じなかったが、ハイ爺はハミルトン王国の王家の証のペンダントを持っており、さらにハイ爺の強大な魔法の前に、文句を言うものはいなくなった。


 そしてすぐに、ハイ爺は王位を孫に譲った。これも驚きだったが、なんとザイガーはハイ爺の孫だった。そして、私のだと言うことも判明した。王になったザイガーは早速人種差別撤廃を宣言。これまでの禍根は残っているが、人々は段々と平等を受け入れつつある。


 元々、勇者の証はハイ爺の兄弟全員が持っていたらしい。ハミルトン王家は代々勇者の家系で、魔族を監視するのが役割だとか。だけど、まんまと魔王リヴィーネにしてやられて滅亡させられてしまったらしい。


 ただ、なぜ私が勇者の証を持っていたのかが明らかになった。私の父親はなんと、、ハイ爺の弟夫妻から生まれていたのだ。そして、父親にハイ爺の弟の勇者の証が継承され、そして、私に継承された。

 そして、ザイがーは、ハイ爺の息子、つまりザイガーの父親から勇者の証を密かに継承していたらしい。


 魔族を倒すには魔族との騙し合いに勝たないといけない。だから、ザイがーはずっと勇者の証を隠し続けていたらしい。ここぞという時に、魔王リヴィーネを討つために。


 まあ、後から聞いた話だと、最後、魔王リヴィーネにとどめを刺すのは、多分ザイガーだろうと、ナタリーも予言していたらしい。それだったら、少しぐらい私に教えてくれてもよかったじゃないと、いつもこのネタでザイガーを困らせるのが私の最近の楽しみである。


「お待たせ」


 広場の噴水の前で待っていると、ようやくザイがーが現れた。


「遅いよ、女の子を待たせるなんてどういう了見?、王様」

「やめてくれよ。その呼び方。全然慣れないよ。そもそも、オレは王になるなんて、そもそもナタリー先生の書いたシナリオにはないんだ」

「まあいいじゃない。ザイガーが王様ってなんかいいよ」

「いい加減だな」

「あはは、それじゃあ、早く行こうよ、今日はリリーやミカちゃん達へのプレゼントを買いに行くんでしょ」

「そうだった。あんまり城から離れると、うるさい従者が探しにくるから、さっさと探しに行こう。それで、ウルツやエリスは?」

「もう先に行ってるって」

「なんだ、せっかちだな」

「違うでしょ。あなたが遅いんでしょ」

「あはは、ごめんごめん」


 商店街の方に駆けていく。途中、教会のベルが鳴り響いた。その音に驚き、教会の方を見ると、シュバ人とハミ人が結婚式を挙げている。


「差別も段々なくなってきたね」

「ああ、そうだな。なあ、ミリーナ」

「何?」

「俺たちも結婚しないか?」

「え? 何を?」

「あ、えっと、その、まあ、お前と初めて会って、ベッドに誘われた時から、まあ、その気になってはいたんだ。それに、一緒に戦ううちにな」

「はとこって結婚できたんだっけ?」

「できる、なんの問題もない」

「そうなんだ、だけど、もっと雰囲気を大事にしてほしかったな。これまでそんな素振り一切見せてこなかったじゃん」

「それは、だって恥ずかしかったし、色々忙しかったし」

「まあ、いいよ」

「え?」

「だから、いいよって何度も言わせないでよ。恥ずかしい」

「だけど、ミリーナだって、全くそんな素振りなかったじゃん。つまり、オレのこと好きってことでいいんだよな」

「もう、恥ずかしいこと聞かないで、私だって、その、いいなとは思ってたんだから。だけど、いきなり結婚は早すぎ。とりあえずお付き合いからね」

「や、やったーーー」

「そんな喜ばないでよ」


 天地がひっくり返りそうなほど喜ぶザイガー。あんなザイガー見たことない。リヴィーネを倒した時でさえクールだったのに。これが意外に本当のザイガーなのかもしれない。もっとこれから、知らないザイガーを発見して行きたいな。


「あ、そうだ、もしかして、これもお母さんのシナリオ通りなの?」

「あはは、それはどうかな。ナタリーのシナリオ通りかは内緒」

「もう、なんなの!」

「さ、早くしないと、プレゼント選びの時間がなくなるよ」

「全く、分が悪くなると、すぐに話を逸らすんだから」


 ザイガーは私の手を取ると、勢いよく走りだす。彼の向かう先の世界を、私は幸せで満ちた世界にしようと心の中でそっと決意した。




 ‡‡‡


 あとがき


 ご読了ありがとうございます。

 ついつい長編を書きたくなり、未完のまま放置してしまうことが多かったため、今回は短編でしっかり終わらそうと決意して書き始めました。恋愛ものがいいなと思いつつも、書いてみたら戦闘ものになってしまった——。

 まあ、そんなこともあるでしょう。

 ご覧いただいた皆さんが、少しでも楽しんでいただけたなら幸いです。

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勇者の花嫁〜勇者殺しに復讐するまで〜 根津白山 @OSBP

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