KAC20242 近未来住宅へようこそ。重大欠陥あり。
久遠 れんり
近未来住宅へようこそ。少しだけ問題が……
「さあ、それでは参りましょう」
そう言って彼は、最新型住宅の内見するために、俺達を車に乗せて走り始めた。
手前には田園地帯。
この周囲、旧街道沿いに学校もきちんとあり、少し向こうには大学病院があるそうだ。
つまりど田舎。
ぼた山のような。まるで、昔話に出てきそうな山がいくつかある。
その一つに向かって行くようだ。
「この辺りの休耕田にも、太陽電池パネルが設置されていますね」
「そうです。これからは、自家発電です。災害時のインフラ。つまりライフラインの切断は死活問題ですからね。個人個人がそれに供えないと駄目です。これから先、自動車にしろすべて電気ですから。自家発電なら、燃料が掛からず維持費のみ。理想的でしょ」
まあ、彼の言うことは分かる。
だが、太陽電池パネルにしたって寿命はあるし、蓄電ならバッテリーの交換は定期的にやって来る。その費用が馬鹿にならないことも知っている。
「結構山だね」
「ええ、これから大地震が来たときに、津波は怖いですから。住宅は多少不便でも高い所が基本ですよ」
彼はそう言いながら、九十九折れになってきた山道を軽快に登っていく。
「これは、ターボですか?」
「ええ車は、ターボの四駆が基本です。雪が降ったときにも営業は走りますから。きちんとスタッドレスで、認定マーク付きの樹脂チェーンも積んでいます。それに、きちんと予備のガソリンも常備です」
彼は饒舌に語りながら、運転していく。
すると、いきなり視界が開けた。
真新しい住宅地。
まだ向こう側には山が残っており。壁のようになっている。
「あの奥は、これから造成するの?」
「いやあ、悩んでいるんです。この標高だとかなり風が当たるので。風よけにしようかと残しているんですよ」
そしてまさに、壁の下。
崩落したら埋まりそうな場所に、一段高い平らな所があった。
「あそこに、パネルが設置された場所があるでしょう」
区画が切られ、その敷地にカーポートの屋根がぽつんとある。
それ以外は、太陽電池パネル。
「家がないようだが?」
「近未来タイプです。地下なら温度が年間を通して一定。採光はグラスファイバーで屋内へ引き込み、フィルターで熱と紫外線はカットしています」
「ほう。それは良いかもな」
「でしょ」
そう言って彼は、敷地内に入っていく。
中央部分に、いきなりドアがあった。
地面に。
「なかなか斬新だな」
「でしょ」
見方によれば、墓っぽい。
斜めのドア。横にスライドするようだ。
ドアを開けると、地下に降りる階段。
「これ、家具の搬入は?」
「この幅までです。中で組み立てをしてください」
ドアは、百二十ミリ(一一九〇)だろう。
「まあいい」
そのまま三メートルほど下がる。
階段はまだ続いているが、踊り場があり、ドアを開けて中へ入る。
言っていたように、自然採光なのだろう。天井全体が光っている。
よく見れば、五センチ間隔で点々と光っている。
「結構明るいね」
「そうでしょ。昼間は電気が必要ありません」
そう言って彼は、クルクルと手を広げて回る。
資料を見ると、ここだけで三部屋。
他に、キッチンとトイレバスまでそろっている。
「この階だけで生活できそうじゃないか。下も同じ間取りのようだが」
「ええ。そうです」
資料の中で奥側にある、四角く塗りつぶされたものを発見する。
「ああ。そっちは」
奥にエレベーターを発見する。
「これは使えないのか?」
「ええ。今はもう使えません」
「これ、地下一〇階って」
「えー今は、三階くらいです」
「えっ」
そう言うと、ばつの悪そうな顔になる。
「実は造ったときに、設備を付け忘れたそうでして」
「忘れた? 何を」
「排水ポンプです。いや、排水口も付いているので、大丈夫だったはずなんですが、詰まったみたいでして」
「えーと、築一〇年で七階分が埋まったと」
「そうですね。雨水と、生活排水が結構……」
声が小さくなったが。
「ちょっと待て、生活排水?」
「えっ、ええまあ」
「駄目だろ」
「考え方によったら、巨大な浄化槽かと」
「エアレーションをしているのか?」
「してないでしょう」
「駄目じゃないか」
「そうですねえ」
そうして、水没物件を後にしたが、排水せず山が崩落した場合。結構なことになると思うのだが、この辺りの山全部に同じ物があるという。
俺達は、町を挟んで反対側に家を探しに行った。
だが。
「ありがとうございます。本日ご案内させて頂きますのは、近未来型住宅。地下タイプでございます」
「結構だ」
「お客様ぁー」
KAC20242 近未来住宅へようこそ。重大欠陥あり。 久遠 れんり @recmiya
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