第5話

 環はハクビシンを無事に捕まえた。

 しかし暴れ回りながら、爪を引き裂き、ガサガサと動かし続ける。


 今にも環の腕を引き裂かれそうだった。

 このままではマズい。

 感染症の原因になるといけないので、環は魔法と体質を使って血管を絞った。


「あー、ちょっと、もう! 暴れないでよ」


 ハクビシンは嫌がっている。

 環の手の中から抜け出ようと必死で暴れ回る。


 環はウザったい顔をしていた。

 ムッとした表情を浮かべると、仲介人に言った。


「ねぇ、早く役所の人呼んできて。いつまでも私一人じゃ抑え込めないから」


 環は害獣退治が専門じゃない。

 だからハクビシンの首根っこを掴んだまま動かさないでいるのが精一杯だった。


「ほら、早く!」

「あ、ああすみません。す、すぐに連絡します」


 仲介人は慌ただしかった。

 それもそのはず、目の前には憎き害獣が居る。

 苛立った表情を浮かべながらスマホを取り出すと、役所に連絡をした。その間環はハクビシンを捕まえたまま、顔を背けるのだった。



「本当にありがとうございました」


 仲介人は頭を下げた。

 環は「別に大したことはしてないわ」と答える。

 あくまでも怪奇案件を調査しに来たはずが、結局は害獣退治になってしまい、本業から背いていた。


「ちなみに損害はどうなの?」

「それはもちろん……」


 仲介人は言葉を濁すと、ハクビシンの入った檻を睨んだ。

 多分相当な額を要するに違いない。

 しかしながら、環としてみれば関係はない。


「ですがこれ以上被害が出る前で助かりました。本当にありがとうございました」

「だから大したことはしてないわよ。それに報酬はちゃんと支払って貰うわよ」

「はい。それはもちろんです」


 環にとっても利益が出る。

 これこそがお互いにとってのwin-winな関係という奴だ。環もホッと胸を撫で下ろすと、如何しても気になっていたことを訊ねた。


「ちなみにだけど、一つ聞いてもいいかしら?」

「はい、なんでしょうか?」

「この一軒家、また売りに出すのよね?」


 環は決して興味はないのだが、この一軒家の今後が気になった。

 もしもこの一軒家を修理してから売りに出すのは、流石に信じたくない。


「もちろんです。なんでしたら……」

「悪いけど興味ないわ。それにここに住みたいとは思わないの」


 けれど不動産会社にとっては少しでも利益を回収したいはずだ。

 その思惑通り、目の前の環にさえ買いを求めていた。しかし、環は一瞬で切り捨てた。


「だって、またいつ害獣が来るか分からないような一軒家に大金を出すなんてバカみたいでしょ? そんな一軒家、誰が買うのかしら。逆に聞きたいわ」

「なっ、流石にそれは名誉毀損ですよ!」

「そうかもね。でも事実でしょ?」

「くっ」


 環は辛辣な言葉を吐きかけた。

 仲介人は苦しみながら怒りを生む。

 名誉毀損で訴えられても仕方ない言葉だったが、環は一切否定することも引くこともせず、鼻息を鳴らした。


「じゃ、私は行くから。毎度あり」


 環は一軒家を後にする。

 仲介人はその背中を腹立たしく凝視すると、いざ反撃に転じることもできない。


 眩くて幻想的な翼。

 まるでステンドグラスみたいに美しい。

 そんなものはないはずなのに視線が固定されてしまい、仲介人は環のことを記憶することすらできないでいた。

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【短編】怪奇調査専門家:環・レクイエムと謎の足跡 水定ゆう @mizusadayou

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