第4話 Rain or Shine

ここは都内のバー。

カウンターには男と女。照明を落とした店内で寄り添いながら、ウイスキーを傾けている。


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カラン カラン

グラスの中の氷が心地いい音を鳴らす。

ここは、いつも俺と彼女が逢瀬に使うバーのカウンターだ。


「いつ出発なの?」

「まだ決めてない。明日かもしれないし、来年かもしれない。」

「どういうこと?そんな曖昧なの?」

俺は少し笑いながら彼女を見る。

「まだ行くか決めかねてるの。チャンスなのはわかるんだけど、置いていくものも多すぎて。」

「それには、俺も含まれてるのかな?」

彼女は俺の顔を見て

「…ふふ。そうね。」とにっこり笑う。

あぁ、この人はこんなにきれいに笑うんだなぁと改めて思う。

「でも、…行くんでしょ?」

「…そうね。」

今度は少し悲しそうに笑った。


彼女のファッションデザインが有名デザイナーに認められて、イタリアに来ないかと誘われているらしい。

彼女の夢だったデザイナーになるチャンスをつかんだわけだ。

もうすぐ彼女はイタリアへ飛ぶ。


「出発は見送りしないよ。俺、湿っぽいの苦手だから。」

「そうね。あなたには出発する日を連絡しないことにするわ。」

彼女は俺の頬を撫でながら、少し切なそうな目をした。

「あなたは、これからきっともっと素敵な男になるんでしょうね。傍で見られないのが残念だわ。」

「じゃぁ、この後しっかり爪痕のこしておくわ。」

俺はウイスキーを飲み干した。


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男と女はその後、夜の街に消えて行った。





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GOATな街の夜物語 KPenguin5 (筆吟🐧) @Aipenguin

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