事故物件を通り越す

闇谷 紅

確かに落ち着き先が欲しいなとは思ったけれども

「マジかよ……」


 我ながら特殊な生まれで育ちだとは思う。

 異世界転生なんてネット小説のテンプレに重なりそうな経緯で今いる世界に生れ落ちて、前世の知識を活かして大活躍だと意気込んだものの、思ったほどの活躍は出来ず、だが全く前世知識が役に立たなかったこともなく。


「『冒険者』ってファンタジー世界の何でも屋になるとこまでテンプレではあると思ったけどさぁ」


 冒険者になるべく訓練施設に通い、知り合った連中とパーティーを組んで数年。中堅どころと呼べるところまで来ていたが、パーティーメンバーの一人に妊娠が発覚。父親もパーティーメンバーの一人だったこともあり、パーティーから二人が急に抜けたいと言い出したことで俺の予定は大きく狂った。


「そりゃな、妊婦に荒事アリの何でも屋続けろとは言えんけれどもさぁ」


 厄介なことに抜けたいと言ってるメンバーの内一人はうちのパーティーになくてはならない人材だった。結果として俺たちのパーティーは解散。


「これもいい機会と冒険者から足を洗うことも考えたのだけれども」


 ついでに宿暮らしも終えて、賃貸でもいいから家を探すかと動き出した翌日。こんな世界にもあった不動産屋に紹介されて住宅の内見に訪れた俺を待っていたのは、そう。


「ダンジョンじゃねぇかぁぁぁぁ!」


 ぽっかりと口を開けた洞穴、という訳ではない。煉瓦で組まれた小さな建物の内部には地下に降りる階段。壁には「ポドレの町西のダンジョン」なるプレートがかかっており、階段の近くには赤黒くこびりついた汚れがチラホラと。


「ご安心ください、この地下は攻略済みで死んだダンジョンとなっております。モンスターも全滅しておりますし、地下となりますが部屋数も豊富で」

「確かに部屋数は豊富だろうけれども、せめて血痕消しとけよ! 誰がこんな物件選ぶんだよ! 事故物件ってレベルじゃねーだろ!」


 しかも床の血痕、流した相手が助かっているとは思えない量なのだ。


「安くて訳アリって時点でもっとこう、警戒しとくべきだった……」


 次の物件もこんなオチなんじゃあるまいかと思うと、俺は次へ行く気もうせてゆくのだった。

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