見習い戦闘機隊レインボーローズ!特別編 紅焔と白雪

冬和

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 殺風景なロビーには不釣り合いな、オカリナの音色が響く。

 演奏しているのは、緑色のツナギを着た、小柄で可憐な少女。

 ツナギの上からでもわかるほど大きく膨らんだ胸元には、「姫 白雪」と書かれている。

 ジー 白雪バイシェ。それが、彼女の名だ。

 虫さえ殺さないような儚げな顔立ちと、透き通るような銀色の髪と白い肌。

 今にも氷のように溶けてしまいそうで、常夏の国スルーズ諸島の人間には見えない容姿。

 雪国に雪の妖精というものがいるとしたら、こんな姿をしているんじゃないだろうかと思ってしまう。

 そんな彼女が奏でる音色には、不思議と心を洗い流してくれる優しさを感じる。


「──」


 オレ──スメラギ 紅焔コウエンも、ソファに背を預けながら聞いていると、昔の辛かった出来事を、まるで溜まった膿を出すように思い出してしまう。


 いつも暴力ばかり振るっていた、クソ親父。

 そんな親父に耐え切れなくなって家を飛び出してしまった、お袋。

 取り残されて自棄になったオレは、毎日のように喧嘩と破壊に明け暮れる札付きの悪ガキになっちまって。

 ああ。

 オレは、どうして──


「──コウエン先輩? 大丈夫ですか?」


 ふと声をかけられて、我に返った。

 演奏は、いつの間にか止まっていた。

 なぜなら、演奏している主が、オレの顔を心配そうにのぞき込んでいたからだ。

 水晶のような碧眼に見つめられたオレは、動揺して変な声を出してしまった。


「……へ?」

「なんで、泣いてるんですか?」


 言われて、オレはようやく自分が泣いてしまっていた事に気付いた。

 涙を拭こうとしているのか、バイシェがそっと小さな手を伸ばしてきたのを見たオレは、


「バ、バカ! バイシェの演奏が、か、感動的だったからに決まってるだろ!」


 思わず強がりを言って、その手から逃げて顔を反らし、自分の手の甲で涙を拭いた。

 く、くそ、女の子の前で泣くなんて、恥ずかしい。

 でも、バイシェの演奏には、そうさせるほどの力があるのは事実だ。気を強く持ってないと、すぐこうなってしまうくらい。


「あはは、そうだったんですね。そう言われると、嬉しいです」


 なのに。

 こいつ、自分の演奏で人を泣かせる自覚がないらしい。

 笑みながら照れているのは、まあ、可愛いけれど。

 なら──


「な、なあ、バイシェ」


 気持ちが落ち着いたオレは、目を合わせないままバイシェに話しかける。


「はい、何でしょう?」

「どうして──軍なんかに入ったんだ?」


 できるだけ、嫌な感じに思われないように、ゆっくりと。

 バイシェは、目を丸くする。


「え?」

「小さい頃から、その演奏で有名人になれたお前なら、プロになる事だってできたはずだろ。何か──もったいなくねえか?」


 そう。

 バイシェには、オカリナを演奏している方が、ずっとお似合いだと思う。

 その演奏には、人を癒す力があるのだから。

 なのにどうして、こんな危険で泥臭い世界に──


 じりりりりりり!

 突然、甲高いサイレンが鳴り響いた。

 ドアの上にある『SCRAMBLE』と書かれた赤いランプが点滅。

 緊急発進!


「──!」


 オレとバイシェは、言葉を交わすよりも前に、勝手に動いていた。

 急いでロビーを飛び出す。

 外で待っていたワゴン車の後ろに、急いで乗り込む。

 ワゴン車が、黄色いパトライトを付けながら、発進した。


     * * *


 1分も経たない内に、ワゴン車はとある場所に到着。

 急いでドアを開けて、外に飛び出す。

 そこは、飛行場の簡易シェルター。

 中には、1機のプロペラ機が置かれていた。

 それは、セスナのような軽飛行機とは、全くの別物だ。

 垂直尾翼には、空軍所属機の証たる、バインドルーンの紋章。

 目立ちにくいグレー系のロービジ塗装。そして主翼の下に装備されたロケット弾や爆弾の数々が、戦闘用である事を物語っている。

 これがオレ達の翼、軽攻撃機AT-6Cウルヴァリンだ。

 オレとバイシェは、左側からそのタンデム式コックピットへ上がり込む。

 まずオレが前席へ、続いてバイシェが後席へ。

 射出座席に座って、急いでシートベルトを締めて、ヘルメットを被る。

 ちなみに、色はオレが赤、バイシェが白。そしてオレの方には片眼鏡式の照準システム・スコーピオン付きだ。


「いいか!」

「はい!」


 バイシェと確認し合ってから、キャノピーを手動で閉じる。

 すぐさまエンジン始動。プロペラが、ゆっくりと回転を開始。

 その翅が、ただの円にしか見えなくなるほど加速していくと、独特の羽音を立て始めた。

 もっとも、オレ達にはそんな様子を悠長に眺めている暇なんてない。

 起動したディスプレイとにらめっこして、離陸の設定に大忙し。

 外では整備士が、武装の安全ピンを抜いていく。

 そして、あっという間に5分が経って、離陸準備が整った。


「ホワイト2、行くぞ!」


 ゆっくりとスロットルレバーを押し込むと、ウルヴァリンがゆっくりと前進を開始。

 南国の眩しい陽ざしを浴びながら、簡易シェルターから出て滑走路へと向かった。


「バイシェ、酸素マスク!」

「異常なしです!」

「座席の安全ピン!」

「抜きました!」

「よし、離陸前チェックリスト完了!」


 誘導路を通っている間に、離陸に向けた最終チェックを終える。

 滑走路に入ったら、止まらずにそのまま離陸だ。


「右よし! 左よし! ホワイト2、離陸する!」


 スロットルレバーを押し込む。

 プロペラが唸りをあげて、機体が加速し始める。

 加速していく感覚を確かめながら、速度を見計らってゆっくりと操縦桿を引く。

 すると、機首がゆっくり上がって、機体が浮かび上がった。

 車輪ギアを格納して、オレは宣言する。


「ホワイト2、離陸完了エアボーン!」


     * * *


 しばらく海の上を飛んでいると、目の前に大きな島が見えてきた。

 空から見る島と海は、写真に撮りたくなるような絶景だが、生憎オレ達は遊覧飛行しに来た訳ではない。

 今あそこでは、激しい戦闘の真っただ中なのだ。


『くそ! いつまで釘付けにさせる気なんだ!』

『俺は残業なんてしない主義だってのに……もう疲れちまったぜ……』

『弱音を吐くな! もうすぐ支援が来る! それまで踏ん張れ!』


 無線の周波数を合わせると、早速聞こえてきた。

 ほんと歩兵ってのは大変だな、とオレは思う。

 戦場で酷使されるのは、いつも生身で戦う歩兵なのだ。

 後席のバイシェは、不意に酸素マスクを外すと、持ってきていたオカリナを取り出して、コックピットの中で演奏を始めた。


『……ん? 何だ?』

『これは……!』


 歩兵達が気付いた。

 まるで、砂漠の中でオアシスを見つけたような反応。

 そう。バイシェは、この演奏を無線で届けているのだ。

 30秒ほどの演奏を終えると、バイシェは改めて知らせる。


『ブラボー7へ。こちらホワイト2。現在指定ポイントより南30マイルを飛行中。チェックインを要請します』

『……! おいみんな! 来たぞ! 「スノーホワイト」が来てくれたぞ!』

『何だって!? あの「スノーホワイト」ちゃんが!?』

『「スノーホワイト」ちゃん! 待ってたよー!』


 歩兵のテンションが、途端に上がり始める。

 毎度毎度単純な奴らだな、と思った。

 ちなみに「スノーホワイト」は、バイシェのあだ名だ。

 小さい頃天才オカリナ奏者としてテレビの人気者だったバイシェは、今でもこの国ではちょっとした有名人なのだ。


「機種はAT-6C、武装はM151が14発、GBU-12が2発、機関銃800発。3時間ほど支援可能です」

『ブラボー7、全て了解した! 早速だが、正面の陣地へ支援射撃を要請する! 発煙弾でマーキングした300フィート北を撃ってくれ!』

「ホワイト2、了解です。先輩」

「わかってる。行くぞ!」


 操縦桿を押して、緩やかに降下開始。

 バイシェは、胴体下にあるカメラターレットを操作して、目標地点の映像を計器のディスプレイで確認する。


「マーキング、視認しました!」

「こっちも確認した!」


 正面に、黄色い煙が出始めたのが見えた。

 発煙弾の煙だ。

 そこから北側──つまりこちらから見て奥が、撃って欲しい場所。

 原始的だが、本当にわかりやすい方法だ。

 オレは、そこにしっかりと照準を合わせて──


「発射!」


 トリガーを引く。

 主翼下内側に装備した、ガンポッドが火を噴いた。

 曳光弾の軌跡が、狙った先に飛んでいくのが見える。

 50口径の機関銃は、装甲化されていない「ソフトターゲット」には十分効き目がある。

 それを2秒ほど浴びせてから、


「こいつは、おまけだっ!」


 さらに発射ボタンを押すと、主翼下外側に装備したM151ロケット弾が2発飛び出した。

 まっすぐ飛んで行ったロケット弾は、銃撃を浴びせた場所に飛び込んで炸裂した。

 ただちに上昇。左旋回して、離脱する。


『目標沈黙、確認! いい攻撃だ! 恩に着る「スノーホワイト」!』

『よし、前進するぞ!』

『「スノーホワイト」ちゃんがいれば、怖いもんなしだぜ!』


 歩兵達は前進を始めたようだ。

 これで危機は去ったと言えるだろう。


「……ありがとうございます」


 ただ、バイシェの反応が少し遅れたのが気がかりだ。

 無理もない。

 バイシェは、カメラの映像ではっきりと見たはずだ。

 機関銃とロケット弾の雨を浴びた歩兵達が、どうなったのかを。

 それを見て、平気でいられるはずがない。

 というか、バイシェのような女の子に見せていいものではない。


「……大丈夫か?」

「いえ、大丈夫です」


 だっていうのに、バイシェは計器を見下ろしたまま平然と答えた。

 オレにはどうしても、それが無理をしているように見えてしまう。

 だが、考えている余裕なんてなかった。


「あっ、先輩! 戦車が1両、向かってきています!」


 バイシェが、カメラ越しに新たな敵を見つけたからだ。

 カメラの映像をこちらのディスプレイに移してみると、確かに戦車が1両、走っているのが映っている。

 分厚い装甲と強力な火力を持つ戦車は、歩兵が生身で一番戦いたくない相手だ。たった1両いるだけでも、大きな脅威になる。


「何だって!?」

「ブラボー7はまだ気付いていないみたいです! 早く対処しないと!」

「そうだな! 方位はどっちだ?」

「2時方向です!」

「わかった! 2時方向に行くぞ! 爆弾の照準用意!」


 すぐに操縦桿を右に倒して、旋回。

 バイシェが指示した方向に機首を合わせると、スコーピオンのレンズ越しに、1本の線が地上から伸びているのが見えた。

 バイシェが投下地点を指定してくれた証拠だ。

 ディスプレイのスイッチを操作して、爆弾を準備。

 爆弾を落とすと言っても、特に難しい事はない。

 何せ、とても正確なGBU-12レーザー誘導爆弾だ。タイミングさえ間違わなければ、レーザーを照射した先に寸分の狂いなく落ちていく代物だから。

 機体のコンピューターが示してくれるタイミングに合わせて──


「爆弾投下!」

 発射ボタンを押すと、がくん、と機体が一瞬揺れた。

 爆弾が主翼から離れた証拠だ。


「照射!」


 同時に、バイシェがレーザーを照射する。

 カメラを向けたままボタンを押すだけの、簡単な作業だ。

 目に見えないレーザーの光に、爆弾は吸い込まれていっているだろう。

 オレはじっと映像を見ながら、命中を見守る。


「命中まで、3、2、1──」


 バイシェがカウントタウンした通りに、爆弾は戦車に直撃した。

 爆発。一撃で砲塔が吹き飛んだ。

 いくら重装甲の戦車といえども、戦車砲弾より遥かに重い航空爆弾が直撃すれば、ひとたまりもない。


「っしゃあ!」


 オレは思わずガッツポーズを取っていた。


「……! 待ってください! これは──」


 だが、バイシェが何かに気付いて声を上げた。

 直後。

 機体が突然、閃光の雨を浴びた。

 がんがんがん、と機体に穴を開けられる衝撃。


「ああっ!?」


 そして、バイシェの悲鳴。

 さらに、警報音が鳴り響く。


「バイシェ!?」


 反射的に振り返った。

 後席の様子は、前席からだとよく見えない。

 ただ、バイシェは、ぐったりと俯いている事だけはわかった。


「どうしたバイシェ! 返事をしろ!」

「う、うう……」


 バイシェは弱々しい声を出すだけで、返事をしない。顔も上げない。

 まさか、と最悪の予感が脳裏を過る。

 途端、言葉に表しようのない感情が込み上げてきた。


「……誰だ!? 誰だ撃ってきたのは!?」


 その答えは、ディスプレイがまだ映していた映像に映っていた。

 破壊された戦車の隣に陣取る、戦車のような何か。

 対空戦車だ。

 強力な機関砲を4門装備しているそいつは、ウルヴァリンのような軽攻撃機にとっては天敵とも言える相手。

 だが今は、そんな事などどうでもいい──


「お前かああああっ!」


 そいつがバイシェを撃ったなら、やり返さない訳にはいかなかった。

 すぐに機体を反転させ、そいつに機首を向けて急降下。


「ダメ……逃げ、て……」


 バイシェの声が聞こえたような気がしたが、無視。

 とにかく使える武装をありったけ使って、対空戦車を破壊しようとした。

 だが、正面に捉えた瞬間、対空戦車はまた撃ってきた。

 強烈な弾幕。

 キャノピーが割られた。

 激しい風の音で、警告音さえ聞こえなくなった。

 ディスプレイが全てダウン。

 コックピットに、黒い煙が充満し始めた。

 機体は完全にハチの巣で、長く飛んでいられないのは明らか。

 オレの、完全な敗北だった。


「こ、この野郎おおおっ!」


 それでも、このまま黙ってやられる訳にはいかなかった。

 ふらつく機体を立て直して、対空戦車にまっすぐ向かわせる。

 どうせやられるなら、道連れにしてやるまで。

 そう決心して、オレは射出座席のハンドルを引いた。

 体が座席ごと、真上に吹き飛ばされる。

 直後、火だるまになったウルヴァリンは、対空戦車に真正面から突っ込んで、爆発した。


     * * *


 気が付くと、オレは地面に叩き付けられていた。

 結構強く叩き付けられたのに、割とすんなり起き上がれたのは、自分でも驚いた。

 用済みになったパラシュートを乱暴に外して、オレは辺りを見回した。

 もちろん、バイシェを探すためだ。

 2人乗りの軍用機に備わった射出座席は、どちらか片方が作動すれば、もう片方も連動して作動する仕組みになっている。

 座席が故障でもしてない限り、バイシェも脱出に成功しているはずだ。


「──!」


 バイシェは、すぐに見つかった。

 パラシュートで、ゆっくりと地面に落ちていくのが見える。

 だがその着地は、あまりにも乱暴だった。

 きちんと着地姿勢を取っていない。

 というより、まるで糸の切れた人形を乱暴に投げ捨てたような──


「バイシェッ!」


 すぐに、駆け寄った。

 体のあちこちが痛むが、そんな事気にしている場合ではなかった。


「バイシェッ! バイシェッ!」


 倒れたまま起き上がる気配のないバイシェに駆け寄って、その体を起こす。


「しっかりし──」


 言いかけて、絶句した。

 バイシェの目は開いていた。

 だが、その瞳は不気味なまでに虚ろで、オレに気付く様子もない。

 それ以前に。

 口元からは、出てはいけない赤いモノが零れている。

 そしてその華奢な体は、無残なまでに真っ赤に染まっている。

 誰が見ても、手遅れなのは明らかだった。


「──嘘だろ」


 ようやく出た声が、それだった。

 受け入れられない。

 あんなにきれいなバイシェが、こんなにも無残に変わり果てて──


「嘘だろバイシェッ! 返事しろよっ! オレだ! コウエンだ! わからないのかよっ!」


 何度体をゆすっても、返事ひとつない。

 それどころか、がくり、と糸の切れた操り人形のように崩れ落ちるだけ。

 生気を失った顔は、零れ落ちた雫が当たっても、ぴくりとも動かない。

 そう。オレは、泣いていた。


「そんな、そんな──!?」


 どうして。

 どうしてこんな事に。

 あんなにきれいだったバイシェが、どうしてこんな目に。

 理由は明らかだった。


「オレの、せいで──!?」


 バイシェはあの時、確かに逃げてと言っていた。

 それを無視して、感情に任せて反撃しようとしたからだ。

 完全に、オレのせいだ。

 なんで、あんな事したんだよオレ。

 これじゃ、オレがバイシェを殺したみたいじゃないか。

 そう後悔しても、この結末は変えられない。

 もう気持ちがぐちゃぐちゃになったオレは、


「馬鹿野郎ぉぉぉぉっ!」


 ただただ、空に向かって叫ぶしかなかった──


     * * *


「──っ!?」


 そこで、目が覚めた。

 がばっ、と体を起こして、辺りを見回す。

 いつもと変わらない、自室の寝室。

 近くの机には、勉強に使った教科書やウルヴァリンのマニュアルが置きっぱなし。

 オレは、ベッドの上に裸でいる。

 そしてベッドの中には、もう1人。

 左隣で、オレの方に体を向けて静かな寝息を立てながら眠っている、裸のバイシェが。


「ゆ、夢か……」


 オレはやっと、そう自覚できた。

 よく考えたら、オレもバイシェもまだ学生。実戦に行く事なんてあり得ない。

 それでも、すごくリアルで、胸糞悪い夢だった。

 まさかこれも夢じゃないよな、と一瞬不安がよぎった。


「……」


 オレは、バイシェの頬をそっと撫でた。

 んん、とバイシェは僅かに声を漏らす。

 よかった、バイシェはちゃんとここにいる。夢じゃない。

 それにしても、バイシェは本当にきれいだ。

 銀色の髪も白い肌も、細くてグラマラスな体つきも。

 オレは、そんなバイシェに傷ついて欲しくない。ずっときれいなままでいて欲しい。

 あんな無残な姿に変わり果てるなんて、まっぴらごめんだ。

 だから、オレはバイシェを守りたい。

 けれど──


「オレは、バイシェを守れるのか……?」


 どうしても自信が持てない。

 オレは腕っ節が強いだけで、何の特別な才能もない。

 だから、練習機に毛が生えた程度の中途半端な飛行機しか乗れない。

 なのに、ずっと何かを傷つける事しかしてこなかった、中途半端な男だ。

 正直言って、怖い。

 オレはいつか、バイシェさえ傷つけてしまうかもしれないと。

 お袋にさえ容赦しなかった、クソ親父のように。

 所詮は焔でしかないオレに、近づいただけで溶かしてしまうきれいな雪を守る事なんて、身に余る夢なのか──


「って、何ずっと一緒にいる前提で考えてるんだ」


 そこまで考えて、自分の身勝手さを恥じた。

 実戦に出る時が来ても、オレ達は一緒とは限らない。

 バイシェが傷つかずに済むなら、もっと強い奴と組んだ方がいいだろう。

 理屈ではそうわかっていても、オレは納得できない。

 だってオレは、ずっとバイシェと一緒にいたい。独り占めしたい。誰にも渡したくない。

 そう考えてしまうくらい、バイシェが好きになってしまったのだから。


「……寝よう」


 考えるのを止めるために、ベッドに背を預けて寝ようとした。

 だが逆に、今度は違う事が気になってしまう。

 バイシェは、どうして軍に入ろうと思ったのだろうと。

 国防のために人殺しをする汚れ仕事なんて、バイシェには似合わない。

 オカリナで人の心を癒す方が、ずっとお似合いなのに──

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