薄明光線を望む[社長令息ライバル×その幼馴染兼従者]
架空のカードゲームアニメ本編終了後2次創作
社長令息ライバル×その幼馴染兼従者
「おかえり、レジウェル。」
ぱたぱたと足音を立てながら玄関まで出迎えたのは背の高い色白の青年。
手には乾いたタオルを持っていて、急な雨の中帰ってきたもうひとりの青年を労う。
「ただいま、アージナス。タオルを持ってきてくれたのか、ありがとう。」
そう言ってレジウェルは濡れたコートを脱ぎ、タオルで髪を拭く。
彼の夜のような紫の髪が、光に照らされ艷やかに反射する。
「雨、急に降り出したね。大丈夫だった?」
「ああ、少し濡れたが……このくらいなら平気だ。」
レジウェルは笑いながら答える。
あの事件が終わって3ヶ月が経とうとしていた。
あれからレジウェルは社長業を父から引き継ぎ、事件で引き起こされた被害を復興させつつ日々忙しく働いている。
一方でアージナスはと言うと、事件の後遺症も改善し、日常生活に支障が無い程度には回復した。
現在はレジウェルと共に暮らしており、家事全般を担っている。
「夕食の準備できてるよ。今日はシチューにしたんだ。」
「それは楽しみだな。すぐ着替えてくるよ。」
アージナスの言葉に嬉しそうな表情を浮かべ、彼は自室へと向かった。
「雨、止まないね。」
大きな窓の外は、暗い雲に覆われている。
ざあざあと雨粒が窓ガラスを叩き、時折稲妻が走る。
外の様子を見ながらアージナスは心配そうに呟いた。
あの事件があってから、彼はやけに天気を気にするようになった。
自覚は無いのだろうが、今日もまた、しきりに窓の外を眺めている。
「そうだな。でも、明日までには止むだろう。」
「……うん。」
レジウェルの言葉に、彼は笑顔で答えた。
けれどその声はどこか寂しげで、レジウェルの心は締め付けられるように痛む。
まだ、アージナスの精神は、天に囚われたままだ。あの日から、彼はずっと空を見上げ続けている。
天国など、何処にも無いというのに。
「アージナス。」
「ん?どうしたの?」
レジウェルは彼の名を呼んで振り向かせると、そのまま優しく抱き寄せた。
レジウェルの顔は身長差のせいでアージナスの胸元に埋まる形になる。
突然の行動に驚きつつも、彼は静かに受け入れる。
こうやってレジウェルが何かをする時は決まって彼が不安を感じている時だと、アージナスは気づいていた。
きっと、あの時のことを思い出しているのだろう。アージナスが神徒と化し、命令のままに力を振った時の事を。
あの日も、こんな風に激しい雨が降っていたから。
「大丈夫だよ、僕はここに居るから。」
「……あぁ。」
アージナスは優しい声でレジウェルを慰める。
自分が傍にいることで少しでも安心できるなら、いくらだって寄り添ってあげたい。それが、今の自分に出来る唯一の事だから。
レジウェルはそのまましばらくアージナスを抱きしめ続けていたが、やがてゆっくりと体を離す。
そこにはもう、先程の弱々しい姿は無かった。いつも通り堂々としていて頼れる"親友"の姿があるだけだ。
あの事件をすべて忘れるなんて出来ないし、してはいけない。
もう二度と元通りにならない不可逆の事象もある。
捻れ、考えがすれ違おうとも2人はわかり会えることを既に知っている。
今はまだ雲がかかっていても、いつかは光が射し込むはずだと信じて。
2人は雨宿りを続ける。
【BL】曇天短編集 @Iwannacry
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