とある新人冒険者が奴隷と共に住む一戸建ての内見をする話

猪木洋平@【コミカライズ連載中】

第1話

「へぇ……。悪くない家だな」


 俺はそうつぶやく。

 今日は気に入った物件の内見――内部見学に来ていた。


「リナリィはどう思う?」


「えっ!? わ、私ですか?」


「ああ。俺は結構気に入ってるんだけど」


「わ、私も……です。……その、ご主人様といっしょに住みたいなーって思ってます……」


「ありがとう。リナリィにそう言ってもらえて、俺も嬉しいよ」


「うにゅぅ……」


 リナリィは顔を赤くする。

 可愛い。

 そんな照れてるリナリィの頭を撫でてから、不動産屋の女性に向き直る。


「この家、購入するよ」


「えっ!? か、買われるのですか!?」


「ああ。買いだよ」


 どうして驚かれるのだろう?

 内見に来ているぐらいだし、購入意思は伝わっていたはずだが。


「……確かに……素晴らしいお家ですが……。とても新人冒険者が住むような家ではないですよ……?」


「暗黙のルールでもあるのか?」


「いえ、お値段の問題でして……。今回は、一応、その、内部を案内するだけのつもりで……」


「ああ、冷やかしとでも思われていたのか。それは申し訳なかったな。俺は新人冒険者だが、リナリィが優秀なんだ。だから問題ない」


「あぅ……ありがとうございます……」


 リナリィが照れて顔を赤くする。

 彼女の身分は奴隷だ。

 異世界に転移した俺が、なけなしの金で購入した大切なパートナーである。


「……えっと……その……分かりました! それでは、お支払いは金貨20枚となります!」


 不動産屋の女性は気を取り直して言った。

 かなりの大金だ。

 しかし、問題はない。

 俺は袋から金貨を取り出す。


「支払いはこれでいいか?」


「えっ!?」


 不動産屋の女性はまたも驚く。

 そんな驚くようなことだろうか?


「……あの、即金で払われるとは思っておらず……。後でお支払いいただくつもりでした」


「別に、金貨20枚ぐらいは問題ない」


 俺はリナリィの購入時に、かなり無理をした。

 その直後は2人で極貧生活をしたものだ。

 しかし、いろいろあって彼女の才覚が開花。

 今では彼女のおかげで、金に困ることはなくなった。


「……」


 不動産屋の女性は呆気に取られた顔をしていた。

 だが、すぐに営業スマイルに戻る。


「……左様でございますか! それでは、不動産ギルドの方で手続きをして参ります!!」


 彼女はそう言うと、立ち去ってしまった。

 建物内には、俺とリナリィだけが残される。


「……奴隷の私が、一戸建てに住ませていただけるとは思いませんでした……」


 リナリィがぽつりとつぶやく。


「嫌だったか?」


「いえ、その……すごく嬉しいです。今日のこと、そしてご主人様に買われた日のことは、一生忘れません」


「大げさだな。俺は大した奴じゃない」


「そんなことありません!」


 リナリィが大きな声を出したので驚いた。

 彼女はすぐにハッとして、顔を赤くする。


「すみません……」


「いや、謝ることはないけど……」


「……でも、私は本当に感謝しているんです。……ご主人様は私にとっての英雄です」


 リナリィは真剣な目で俺を見つめる。

 俺は少し照れてしまう。


「これからも、2人で頑張っていこうな」


「はい、ご主人様。……私は死ぬまでお仕えする覚悟です」


 リナリィはそう言って、嬉しそうに微笑んだ。

 俺はふと、窓から空を眺める。

 雲ひとつない青空が、俺たちを見下ろしていた――。

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とある新人冒険者が奴隷と共に住む一戸建ての内見をする話 猪木洋平@【コミカライズ連載中】 @inoki-yohei

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