KAC20244 ささくれといえば

武藤勇城

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ささくれといえば

ささくれ。「親不孝をすると出来る」なんて

迷信だと思っていた。あれほどの死活窮した

事件が起きるまでは。記者の俺は飛躍したプ

ロ日本スポーツ、野球やテニスの新星を追っ

たり昔の元サッ家、太宰や芥川の足跡を取材

する。オープンカーせん車したてピカピカを

乗り回し、赤スーツは派手で、現金を鞄で持

ち歩くといった風体。取材間の存在は極力出

過ぎまいと心掛ける。その日の現場は関東甲

信越の山中。車は立ち入れず自慢のオ一プン

カーを降りて徒歩で向かった。山頂部へと続

く南アルプスを登る。スキーにはまだ早い新

雪。葛折りの道八方に望む宏大無辺の銀世界

。急なS字カーブを越えた先で気温を確認。

氷点下5Cの表示に愕然としつつ、カメラを

出した。映画監督だったら絶好のロケーショ

ンと大喜びだろう。海外ロケでも中々見れな

い絶景で、北欧や北の国のドイツ、ロシア、

ポーランドという諸国を巡った俺などでも記

憶にない。写真を撮ろうと、手袋を外した。


その時指先に鋭い痛みが走った。ささくれが

捲れ、中古のチノパンに血が滴るほどの裂傷

。こう見えてシャイナ大人の俺が、周囲に木

霊する叫び声を上げ、山陸に伝う鳴動となっ

た。崩れやすい新雪。大雪崩。走馬灯。友の

顔、教科書の名前で、今まで忘失の。代わる

代わる古い記憶が浮ぶ。現在の窮地を脱す方

法を脳が探すも八方塞。検索は残念な結果に

。もうダメだ。俺は死ぬ。そう思って諦めか

けた刹那。幼い頃他界した祖父が雪山おく地

で遭難しかけた話。正対し身を低く、からだ

を固定する。眼前に雪壁。衝撃。激痛。ずざ

ざっと雪を被り九死を感じ丘を滑り落ち、終

息した。助かった。体中が痛い。あれは春先

の暖かい日、祖父が話した体験談。同年秋に

祖父は他界。祖父の遺した最期の言葉に命を

救われた。親不孝でささくれる、有名。今朝

両親と些細な言い争いをしただけだが、ささ

くれの原因か。俺は家に帰るあいだ親不孝を

恥じ、命あるうちに親孝行しようと誓った。

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