Doll’s festival In London

黒井咲夜

ノア・ヤシオの憂鬱なひな祭り

ひな祭りDoll’s festival

ここロンドンから約10,000km(フライト時間だと12時間!)離れた国、日本のお祭り。そして――


望愛ノア八塩やしおのおばあちゃんから手紙が届いたらすぐ電話しなさいって言ったでしょ!」


――ママが一年で一番やかましくなる日。


「そんなこと言ったって、忙しいんだよ。読まなきゃいけないテキストも、書かなきゃいけないレポートもたくさんあるし」


「わざわざ日本からひな祭りのお祝いを贈ってくれたのよ?なかなか会いに行けないんだし、ちょっとは祖父母孝行しなさい!」


目上の人への礼儀に厳しいのはパパと同じはずなのに、ママの言い方はちょっと恩着せがましい。

パパはイギリス人で、ママは日本人だからかもしれない。


「お祝いって、どうせ今年も不気味な小さいドールでしょ?なんでそんなもの貰ってお礼言わなきゃないのさ」


「不気味って……」


ママがエアメールを開けて中身を取り出す。

鳥の巣みたいなリースの中に、女の子を模したシンプルなドールがはまっている。かれこれ15回ぐらい見てるけど、やっぱり不気味だ。ブードゥー人形みたいで。


「これは流し雛。厄と一緒に川に流す縁起物なの。望愛の健やかな成長を祈って、おばあちゃんは毎年、安くない流し雛を贈ってくれてるのよ」


「流すってどこに?テムズ川に?」


ママの眉間に皺がよる。やばいこと言っちゃったかも。


「まったく、余計なことしか言わないのはパパそっくりね!だいたい望愛はジュニパーのおばあちゃんたちにはホリデープレゼントとか贈るのにママの実家には行きたくないとか言うし――」


やっぱり、ママの説教タイムが始まってしまった。こうなると長いんだよな。


「とにかく、それ要らないから!いつもみたいに儀琴ギコトの部屋に置いといて!」


説教というより愚痴の領域に達し始めたママから逃げるように、自分の部屋に飛び込む。

ジュニパーのおばあちゃん――パパの実家に住ませてもらってるんだから、あんな風に言うことないと思うんだけどな。


「まったく、日本人の感覚ってのはよくわからないな……」


本当に分からない。

いくらほとんど会ってないとはいえ、『Noahノア』って名前を聞いて、どうしてボクが女の子だなんて勘違いをするんだろう?


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Doll’s festival In London 黒井咲夜 @kuroisakuya

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