【KAC20246】とりあえず抱き寄せた腕はほどいた方が無難だろうか?

この美のこ

とりあえず抱き寄せた腕はほどいた方が無難だろうか?

 噓だろ!

俺は自分の大胆な行動に驚いていた。


 親友の翔の為のフラッシュモブ・サプライズ・プロポーズは大成功に終わった。

ここ何日か懸命に練習した甲斐があったというものだ。

やり切った満足感と成功した喜びのあまり隣にいた奈々の手を取って感動を分かち合っていた。

それはいいとしよう。

みんなで盛り上がっているのだから。

奈々だって俺の手を取って飛び上がって喜んでいた。

だからって、ハッとしたようにして手を引こうとした奈々の手を「離さないで」と引き寄せて抱きしめてしまうなんて……!

奈々と目が合った瞬間、俺の心臓ははちきれそうになった。

ヤバいぜ。

抱き寄せた腕はほどいた方が無難だろうか?

いやいや、このチャンス逃すものか。

一瞬ではあるが俺の頭の中で葛藤が渦巻く。


 俺は貝原かいばらうしお

ストリートダンスのインストラクターとしての仕事を始めて約三年。

生徒も順調に増えて軌道に乗ってきたところだ。

生徒からは親しみを込めて潮先生と呼ばれていた。


 そんなある日、早乙女さおとめ奈々という女性が入会してきた。

最初は、どこか寂し気な印象だったが、ダンス教室に来る度に目を見張るほど明るくなって生き生きとして来るのが分かった。

彼女にこのダンスがあっていたのだろう。

それが嬉しくて、俺はいつも奈々を目で追うようになり、いつしか彼女が気になる存在となっていた。

コロコロ笑う彼女の笑顔は最高だ。

こんな子が俺の彼女だったらなお最高だ。


 今回の、フラッシュモブ・プロポーズにも気軽に乗っかってくれた。

週一度のレッスンがほぼ毎日会って練習するようになった。

懸命に踊る奈々の姿はドキッとするほどセクシーだった。


もうこの手を離すわけにはいかない。

奈々も驚きながらも頬を紅潮させてうつむき加減ではあったが嫌がるそぶりはなかった。

、抱き寄せた腕は緩めたが、俺は勇気を出してこう言った。

「俺は奈々さんが好きです。付き合って下さい」

俺の気持ちは届くだろうか……。






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