自己増殖する軌道エレベーターの一室から見つかった、奇妙な内見メモについての報告

藤原くう

極秘資料につき、閲覧を禁ずる

〈屋上〉

 高度289キロメートルに存在するこの屋上にはエアロックが存在しており、屋上に出たい人は宇宙服の着用が義務付けられている。

 この九十九龍城は今なお成長しており、来年には300キロの大台に突入する。フランス政府から贈られたという10分の1スケールの凱旋門には時折、環状衛星〈アースヘイロー〉を眺める輪のない天使がいるらしいけど本当か?


〈アースヘイロー〉

 衛星軌道上につくられた宇宙基地。建設予定である軌道エレベーターと接続する予定。九十九龍城との接続は完了しているが、人間の行き来は行われていない。

 つい先日、隕石によって破損。アンドロイド工場の床に穴が開き、そこから生産された人形が落ち続けている。世間でいうアンドロイドの雨だ。私の友人なんかは、この雨に打たれて人格が入れ替わってしまった。


〈~二百万階〉

 犯罪者や浮浪者、探検家さえも足を運ぼうとしない現代のラビュリンス。エレベーターはあるが、下まで降りるのに十年はかかるといわれている。

 壁を薄くしすぎたために、最近ではアンドロイドの雨によって穴ぼこになっているのが、いくつかのパイロットによって報告されている。また、横たわるアンドロイドに交じって、焼け焦げたスーツを身にまとった白骨死体もあったとかなかったとか。


〈白骨死体について〉

 九十九龍城では行方不明事件が相次いでいる。イタリアンマフィアのボス、その犯人を公表しようとしていたA級探偵、まったく関係ない探検家……。しかし、彼らの姿がなくなったのは、遥か下層である。関係はないだろう。

 二百万階ともなると外は宇宙も同然であり、そのパイロットの精神状態が芳しくなかったことは――空から女が降ってくる――などという当たり前の発言からも明らかだ。


〈~百万階〉

 人類未到達と噂されているが、うっすらと人の足跡が残っていたという記録もある。同じような構造同じような扉がどこまでも広がっており、エレベーターホールを少しでも離れると自分が何階にいるのかを見失うほど。まるでコンクリートの樹海だ――とは著名な探検家が遺した言葉。


〈居住区の噂2〉

 百万階あたりからは建材の種類が変わるといわれている。建築方法において、古代ローマのパンテオンを参考にしているとか。上の方が軽い材質を用いているのだ。新しく軽量なものが上層を、下層では頑丈で重い建材が使われている。例えば、コンクリートと複層金属板のように。

 とにかく、内見にいらっしゃる方には『最新テクノロジー』を猛プッシュ!


〈複層金属板〉

 火星地中で見つかったウルトラレアメタルをもとにして製造された金属。ダイヤモンドよりも硬く薄く、そして高価。この材質が選ばれることになったのは、イタリアンマフィアと入れ替わるように台頭した、ジャパニーズマフィアの影響とも。


〈ジャパニーズマフィア〉

 もしかして:ヤクザ。九十九龍城では木龍虎次郎を中心とする集団を指す。九十九龍城を牛耳っていたチャイニーズマフィアのボスの行方不明に関与している、スノウクラッシュをばら撒いてるやつらであるだとか、黒い噂に事欠かない。私の知ってるこーちゃんは怖くないけどなあ。


〈~二万階〉

 居住区。階下は一つの街のようになっており、四万階までは各地の街が再現されているという。……それから先は、九十九龍城管理委員会にもよくわかっていない。

 最近、国土委員会が設立され測量計画が考えられているが、九十九龍城の成長速度に対して人間の調査力が劣っているのではないかという声もあり、なかなか進んでいない。


〈居住区の噂1〉

 10万階ともなると街は再現されておらず、従来のマンションが広がっているとされている。狭い通路に、タワー外部に面する形で、部屋が広がっているというのである。卑猥なステッカーまみれの四畳半からはテクノフォークが漏れ聞こえ、三畳紀への扉があるともいわれているが、上記の通り、まったく進展なし。


〈1万1階~2万階〉

 オフィス街。百億を超える企業が軒を連ねているといわれている。そのほとんどは、フロント企業、あるいは架空の企業とも。一万1階から一万5000階までは、税金が軽減された経済特区となっている。そのために多くの人間が天国を求めて、起業した。何を隠そう私もその一人である。いやー放置されてる探偵事務所があってよかった。でも、こーちゃんよく見つけたねえ。


〈1万4400~4450階〉

 建物を貫通するように滑走路が存在している。主にVOLTが離着陸を行っており、オフィスの上の方からやってくる製品を市場へ運んでいく。撃たれたくなかったら黒塗りのVOLTには近づかないように。特にトミーガンで武装したイタリアンマフィアにはご用心。


〈2階~1万階〉

 アミューズメント施設がある。九十九龍城を不夜城たらしめている部分であり、ありとあらゆる享楽が網羅されているとさえ言われている。傾向として、下の階ほど一般受けしやすいものがあり、上へ行けば行くほどディープかつ危険な香りが漂う。最近、ARグラスをジャックするコンピュータウィルスの出元が、9999/2階と言われている。


〈コンピュータウィルス〉

 スノウクラッシュと呼ばれる。元ネタは同名のSF小説だろうか。感染すると雪のようなブロックノイズが走り、サイケデリックでエキセントリックな映像が視界を覆いつくす。その症状からデジタルドラッグとも。遅効性であり、ドライブ中に発症することが多く、事故が多発しているのはこのウィルスが原因と考えられている。


〈9999/2階〉

 九十九龍城七不思議のひとつ。9999階と一万階の間に存在しているという部屋。そこには天才プログラマーがマフィアから身を隠している、マフィアが違法薬物を生成している、いや100人の座敷童がパーティに興じているのだ……などなど憶測が憶測を呼んでいる。

 その実態は、ガキの頃こーちゃんとつくった秘密基地だ。そういや最近、頻繁に訪れてるらしいけど何かやってんのかな。


〈1階〉

 エントランスには多くの人間が行きかっている。正面から右へ向けば地下鉄へ、左は興行が行われるスペースとなっており、正面を進めば巨大なエレベーターホールがある。当初予定されていた二万階まで伸びる二つの長エレベーターと、百階ほどの短エレベーターの二種類だ。

 ちなみにエレベーターは随時追加されている。また屋上まで一応昇れるようになっているが、適切なルートどりをしなければ先へ進めなくなる。ダンジョンウメダの住人でさえ迷うとか。


〈二つの長いエレベーター〉

 他のものと違い、五重塔に用いられている心柱というものを参考にした特注製で、空中にぶら下がっている。

 今や軌道エレベーターでもある九十九龍城は風や地震のたびに揺れたが、M9の揺れでもEF6の風でも倒れたことは一度もない。エレベーターシャフトが揺れ、振動を吸収しているのである。

 また、二人の亡霊の声がするという噂もある。そのせいか、こーちゃんは乗りたがらないんだよねえ、もしかして怖いのかな?


〈地下五階〉

 サーバールーム。ここに九十九龍城の自己増殖プログラムが入っている。プログラムをつくり出したプログラマーも入っていると言われているが、電脳化は成功例がない。眉唾物である。












〈バックルーム〉

 その部屋の存在は誰も知っていないし知られてはいけない。――14階のゲーセンへ急げ。君の友人はイタリアンマフィアの報復にあって、そこへ連れて行かれたのだ。

 案ずることはない、天使が君を助けてくれるだろう。

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自己増殖する軌道エレベーターの一室から見つかった、奇妙な内見メモについての報告 藤原くう @erevestakiba

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