創作とは、黒歴史と隣り合わせで生きること。

みこと。

中学時代の黒歴史

 絵を描くのが好きだった。

 子どもの頃は特に、毎日何枚も描いていた。


 絵と言っても、いわゆるマンガ的な絵。しかも子どもの絵なので、他人から見れば"落書き"でしかなかった。道具もシャーペンや鉛筆だし。


 でも描いてないとすごくつまらなくて、だから「絵が描けない日」なんてのは、私の中で耐えられない日だった。


 中学生の時だったと思う。

 少年自然の家での合宿があった。


 自然の中で、泊まり込みでいろんな体験学習をする。

 サイクリングやシーカヤック、とにかく時間刻みで予定が入り、身体を使って挑む授業。くっ、運動能力を母のお腹に置いてきた身として、アウトドアは苦手だ。

 締めにキャンプファイヤーがあるのだけが楽しみだった数日間。開始前に思ったことは。


 この期間は、絵が描けない!!

 そんなのツライ。


 ちょうどこの頃、夢中で描いてた一次創作のマンガがあった。

 でも余分な荷物を持ち込むことは禁止されている。


 ……どうしよう。


 私はとても真面目な生徒だった。違反となるものを持っていくのは、気が咎める。

 でも、でも──。


(紙を数枚くらいだったら、許されるんじゃない?)


 スマホなんかない当時。作業はもっぱらアナログ一択。私が描いてる媒体は、素直に普通の紙で、ケント紙ですらない。ケント紙やGペンを手に入れたのは、もっと後のことなのだ。


 宿泊施設では大部屋で、何人か同室になる。

 描く時間は取れなくても、持っててたまにこっそり眺めるのくらいはありなのでは?


 そんなわけで"描けない期間の癒し"として、私は自作マンガを数枚、合宿に持ち込んだ。

 人生初めての規則違反。どきどきどきどき。


 しかし他にもなにがしかを持ち込んだ生徒がいたらしい。

 合宿半ばに、持ち物検査があった。


「不要な品を持ってきている人は、提出しなさい」


 先生からの厳命。この圧に、私は葛藤した。

 今なら「バックレればいいじゃん、その程度」と思うけど、なんせ小心な子どもだったのだ。


(紙だし、折り込んで畳んでいたらバレないよね? 紙を開いて、私の手書き話が、読まれることなんてないよね?)


 恐る恐る、"気づかれないように"と祈りながら、小さく折った紙を先生に渡した。


 さて、今回のテーマが【黒歴史】であることから、もう結果はバレバレだと思うけれど。


 合宿期間が終了し、紙は折られたまま、私の手元に返された。

 何も言われなかった。


「気づかれなかったんだ」と安心したのも束の間。


 担任じゃない先生から突然、「動きを描くなら、このマンガを参考にしたら良いよ」と、有名マンガのタイトルを教えられた。


「~~~~!!(読まれてた──っ)」


 確信して、赤面した瞬間だった。


 しかも普段絡まない先生。ということは、合宿参加の先生間で回された可能性が高い。あああ、バカ正直に出すんじゃなかったぁぁ~。


 今でも思い出すたびに悶えそうになる。「もう時効でいいじゃん」と思うけど、刻まれた羞恥はそう簡単に消えない。


 きっと親切心からのアドバイス。でもそこは見ないふりしてて欲しかった!

 教えられたマンガが何だったかまで、はっきりと覚えてるし、そのマンガを思い出すたびに、私の恥ずかしさも鮮やかに蘇る。あああああ!


 絵に関連することなら、他にもいっぱい恥ずかしい思いをして、黒歴史を積み上げてきた気がする。さらに今、小説を書き始めて、「身内に読まれたら恥ずかしぬ」的な危険も増している。サイト名とアカウントは教えない。絶対!



 人生は常にスリリング。

 生きているとは、黒い歴史も築いていくことなのだ。



 私には八歳の娘がいる。彼女が今、毎日マンガを描いている。


「完結したんだけど、次に何描こう。この後の展開どうしよう」


 そう言いながら、楽しそうに手を動かす。

 見せてくれたことはないし、部屋の隅で隠しながら作業してる。


 その様子には共感しかないが、描いてる媒体は「電子メモタブレット」。書き上げたそばから、即座に消していく。徹底してるなぁ!


(勿体ない)と思う反面、決して見られないという意味では安全間違いなし。

 うんうん、夢中でたくさん描くといいよ。


 彼女もいつかこっばずかしい黒歴史を作る日が来るんだろうか。

 創作は、黒歴史を踏みしめながら生まれる結晶だと、そう思う。


 だからこそマンガも小説も、触れるたびに"有難い"と実感する。


 あの作家先生にも、この絵師先生にも、きっと過去には見えない黒が潜んでる。

 今日も読ませていただき、ありがとうございます!






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【おまけ】


 小学生時代も黒いのあるのです。

 想像したキャラで、セリフ呟きながら帰宅してたら、すぐ後ろに同じ組の男子が歩いてた時とか!


「聞こえてた?」 

「えっ、何も聞いてないよ?」


 彼は一年生ながらに紳士だったと今でも賞賛しています。

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創作とは、黒歴史と隣り合わせで生きること。 みこと。 @miraca

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