第28話 その頃の魔力事務局 エマ視点
「おい、おい、エマ」
クレアが外回りのお使いを頼まれ席を立つと、いつかと同じように所長は所長室から顔を出してちょいちょいと手を振って私を呼んだ。
「なんですか、所長。まあ、クレアの事ですよね?」
私が所長室に入ると、所長はキョロキョロと辺りを見回して頷いた。
「ああ。勿論。クレアは出て行ったな?エマ、この紙にクレアの好きな物、嫌いな物を書いてくれないか」
「オニール様からの手紙ですか?付き合っているんだから私に聞かないでクレアに直接聞けばいいじゃないですか?ヘタレですか?」
私が面倒に思って腕を組んで答えると、所長は「ディランじゃないんだ。頼むよ」言って机の上の封筒を目の前に出してきた。
「なんですか?王家の印?え?王家?は?仕事関係じゃなくて、クレアがらみで?え?オニール様からじゃなくて?いやいやいや」
「ああ。王妃様からなんだよ~~~~~!!!」
「ええええ………」
私は封筒から顔を上げると、ポンっと手を叩いて、所長を見た。
「そうだ。昼からの急ぎの仕事があるんでした。そうそう、急いでって言われてて。あー、忙し忙し。失礼しました」
そう言って部屋を出て行こうとすると、パパっとドアの前に回り込まれてしまった。
チッ。
「エマ。今舌打ちした?なあ、頼む!俺の家に色々あって、王妃様から手紙が来たんだ。で、ディランの恋人がクレアって王妃様は知ってるんだよ。で、クレアが俺の部下だって事も。で、俺の家とディランの所のオニール家で色々話があってるんだけど、そこに王妃様からの手紙がきてだな」
これは、聞いたら面倒な事よ。いそいで耳を抑えてみる。
「所長。私、聞かなきゃ駄目ですか?」
「ああ!頼む!」
「でも、仕事じゃないですよね?」
「うっ。よし、エマが申請していた休暇。すぐに許可を出すから」
「それは当たり前ですよね?どんだけブラックな職場にしたいんですか。最近、本当忙しくて、ゆっくり旅行も出来ないんですよ」
「うっ。あ、王妃様がクレアの好きな物を知りたいから、お菓子や本なんかだったら買って王宮に届けて欲しいって言われてるんだ。それ、王妃様持ちでいいから色々余分に買って良いって言われてるぞ。どうだ?菓子なんかは食べ放題だ」
「いやですよ。何請求されるか分からない。クレアなら喜びそうですけど。怖い、怖い」
「ううう・・・。エマ、何かないのか。望みは」
それはある。けれど、所長に気になる人(売店のカレ)との仲を進展させるなんて無理だろうし、休みも大量に貰えるとは思えない。
「じゃあ、お金ですね。次のボーナス。大幅アップでお願いします」
「ぐ」
「それならすぐに書きますよ」
「よ、よし。王妃様に魔力事務所の待遇改善をお願いしてみよう。ボーナスアップも今ならいけるだろう」
私は頷いてソファーに座ると、目の前に出された紙にクレアの好きな物、嫌いな物、を思いつく限り書いていった。
「あと、クレアの趣味なんかもあれば書いて欲しいそうだ」
「クレアの趣味は食べる事です」
「そうだな。俺もそれは聞いた。だからそれ以外で何かないか?刺繍とか、音楽とか、観劇とか」
「趣味というか特技は変な男ホイホイですけど」
「ああ、それは俺も分かる」
「だけど、クレアは良い子です」
「ああ、そうだな」
私がそう言うと、所長も真面目な顔からぷっと噴出した。
「王妃様とクレア、お茶でもするんですか?」
「王妃様はどうもお茶会をしたいらしいが、ディランが王宮に呼ぶのを嫌がってるようだ。最近、魔術棟にクレアがディランの仕事の一環という名目で時々顔を出しているんだろう?ディランは、クレアが他の魔術士と話すとヤキモチで死にそうになっているらしいが、魔術棟に来てくれるのは死にそうになるくらい嬉しいらしい」
「勝手にやってろって感じですね。どっちにしても死んでるじゃないですか。死神を殺せるってクレアが最強ですね」
「ああ。そうだな。それとな。クレアの兄上だな。こちらからも手紙がきてな。王妃様がどうも、クレアの兄上に手紙を出したそうなんだ。もう、俺、あっちこっち色々な所からクレアとディランの事聞かれて、困ってるんだよ」
「所長が紹介したんでしょ。諦めて頑張って下さい」
「いや、そうなんだけど。エマ、頼む、クレアの事をこれからもちょくちょく聞かせてくれ。そして、王妃様の手紙は任せていいか?」
「はああああ?無理。無理無理。王族の人に手紙なんて書けるわけないでしょう!なんて書きだすんですか?麗しく偉大な王妃様?えーっと、お天気が気持ち良い日が続きますですわね?いかがおすごしざんす?あー!無理!!!」
「ああ……エマ……うん、手紙は諦める……。が、箇条書きでいいからクレアについては色々書いてくれ。王妃様はディランともお茶をしたいみたいなんだ。王妃様とディランの母上が親友だったんだよ。ディランの母上はもう亡くなられているから、王妃様はディランの事を気にかけていてな。クレアの話が嬉しくてしようがないようなんだ」
私は額に手を置くと、「今日の日替わりランチは何かなー」と呑気にポヤポヤしていたクレアを思い出し、頭を叩きたくなった。
「クレアに内緒に聞きたいから、周りから聞くんですね?というか、クレアはこの状況、知っているんですか?王妃様がお茶会開きたいって言っているのを」
「いや、知らせないようにと、ディランから釘を刺されている。王妃様はお茶会が無理なら、クレアとディランにプレゼントを贈りたいようでなあ。あと、お忍びでお出かけできないかとか、色々楽しみにされているんだよ」
「成程……はあああああああ」
「溜息がデカいな……」
そりゃ、デカくもなるでしょう。
「もう、なんだかクレアにはランチ奢って貰わなきゃ気が済まないけど。手伝いますよ。これも、皆の平和の為ですね?」
「有難う、エマ!そうなんだ!ディランを怒らせたら王宮が吹っ飛ぶだろう?いきなり戦争なんてはじめられたら嫌だろう?」
所長の話は冗談なのか本気なのか分からないが、もう、細かい事は気にしないことにする。「死神」のオニール様なら一軍団相手でも勝てるだろうから。
「はあああ。とにかく、今後もこういう風に書けばいいんですね?」
「ああ、頼む」
私がクレアの事を書いている横で、所長はクレアの兄宛の手紙を書いていた。
まったく、クレアには日替わりランチじゃなくて、ブレスコでも奢って貰おうかしら。予約の取り方をオニール様から聞いたと嬉しそうに言っていたから。
王妃様宛の質問を埋めた私が所長の部屋を出ると、丁度クレアがニコニコしながら事務所に戻ってきた。
まったく、他人の気も知らないで。ご機嫌に何か手に持って私の顔をみるとパッと明るく笑った。
「エマ!ただいま!」
「はいはい、おかえり。クレア」
「ふふーん。エマ、何か疲れてるわね?」
「ええ、どっぷりとね」
「ふふーん。では、私がその疲れを取ってあげましょう!!!」
あんたのせいの疲れなのよ。と思いながらも、嬉しそうに言うクレアに罪はない。それに、何か手にもって隠そうとしているだろうことがバレバレだ。
「なに?クレア?」
「へへへー。エマが気になっている、売店の男の子、いるじゃない?」
「は?」
「ふふーん。丁度通りかかったら売店の魔道具が壊れたって困ってたの。魔力装置の所が悪いっていうのは私でも分かったんだけど、でも、『ああ。これは専門分野ですね……私では直せませんから……。』って言って、『すぐに担当に声を掛けて来させることが出来ますよ?まあ、無理してすぐに来させるから、担当にお礼をする事になりますけど……今、忙しいけど、でも彼女は優しいからすぐに来てくれるかな……』ってね!男の子は『彼女って?ひょっとして、いつも買い物に来てくれる綺麗なお姉さんですか?お礼ってお茶に誘ったら嫌がられるかなあ』と言っていましたよ……。むふふ、さー、お茶のお礼付き、売店の魔道具修理の担当になりたいのは誰だ?」
「ハイ!!!私!!!」
ハイ!っと手をあげてクレアの手をガシっと握ると、クレアが先程隠そうとしていた紙を私の手に握らせた。
「はい、エマ。これ、一応、あの人の緊急番号と知ってるだろうけど名前。あと、修理内容と多分、必要になるだろう道具。すぐに行けない時の為に教えて下さいって言って聞いてきたの。ふふふーん」
「クレア!あんた天才!!」
オニール様経由で名前と年は知っていたけど、なかなか仲良くはなれなかった。それが、クレアの一言でデートに行けるかもしれない!!
「えー。本当ー。参ったなー。エマ、もっと褒めてー」
「いや、あとで褒めてあげる、もうすぐに行くから。私、急ぎだから。今日は直帰って所長に伝えて。あと、修理依頼書と、私の諸々書類の処理はクレア宜しく!」
「えええ……。まあいっか。残業がんばろ。うん、エマも頑張ってーーーー!!!」
ヒラヒラと手を振り、ニコニコしているクレアに見送られ、私はダッシュで作業着に着替えると、道具を持って、売店へと駆けだした。
ああ、こういう所があるから。
私の事を思ってニコニコしてたんだろうなって思うと、王妃様の手紙も手伝ってあげようと思ってしまう。
まあ、オニール様とクレアはお似合いだから、王族への手紙は怖いけど、出来る限り色々手伝ってあげよう、と改めて思ってる自分にちょっと笑ってしまった。
私って男運ないんですか?~駄目男ホイホイの主人公がやばそうな男にロックオンされるまでのお話~ サトウアラレ @satou-arare
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