春。内見。恋心。 [バキコとワンズ君②]
ハマハマ
不動産屋おねえさんは今日も内見案内
「その――お二人はお付き合いされてるんですか?」
この春から大学生になる女のコの内見案内が今日のわたしのお仕事。
ってことは高校三年生な訳よ、このコ。
なのにさ、急に親が来れなくなったって事で代わりに寄越されたらしいのが同級生の男のコ。
親御さんの信頼も厚い彼ピもしくは彼ピッピってとこかしら。
だからね、ちょっと冷やかしてやろうと思って言ったんだけど、『やぁっちまったなー!』って感じなの――
わたしの内見のテクとしてさ、一軒目二軒目とちょっと微妙なとこを紹介して、三軒目で『ここらで手を打っとけよ』ってそこそこ良い物件を紹介する訳。
で、いま
ここで決着のつもりで行った三軒目。
オートロックはないけど綺麗な外観に広い駐輪場もあって日当たりだってそう悪くないお部屋。
オススメだったのにアテが外れてボツだったのよ。
だってわたし知らないじゃんそんなの!
なんで床に
もちろん鳩が飛び回ってたとかじゃないの。
羽毛布団だか枕だかの中身が飛び散ってただけみたいなんだけど、なんかスプラッターな感じのそんな部屋うら若き乙女が住む部屋に選ばないっつうの!
だからこれからとっておきの四軒目に連れてくとこなんだけど、いっちょ雰囲気
「え、俺らすか? いやいや。ちっとも付き合ってませんよ」
――失敗した。参ったなぁ。
男のコの事はどうでも良いし知らんけど、女のコちゃん、テンションだだ下がりなんですけどぉぉ!
「――あ、そうなんだ。とっても仲良さそうだったからそうなのかな、って」
「仲は良いすよ。でも同性の友達みたいな感じっつうか――」
ボケ! お前はもう喋んな!
そう思ってんのお前だけだ! 女のコちゃん明らかにそう思ってねぇっつうの!
「高校の文化祭でも二人で漫才やったりしたし、俺らの息バッチリっすよ。なぁ?」
「――ん、ま、まぁね」
漫才? なんなのこの二人?
でもまぁ良いわ。わたしの取って置きの部屋見せたら一撃だから。
「――わぁ! めっちゃ良い部屋! ワンズ君もそう思わない!?」
「ホントだな! けどバキコにはオシャレ過ぎねぇか?」
――ははぁーん。わたしにはピンと来たよ。伊達に何年も高校生を内見に連れてってない訳。
ワンズくんとか言うこの男。
どうやらバキコちゃんに気がない訳じゃないらしいねぇぇ。
『バキコにはオシャレ過ぎねぇ?』
→『オシャレな部屋を自慢したくてサークル仲間とかとここで集まってそのままここに通う様になった連中の中から個人的に居残る男とか出てきてなし崩し的に付き合い出したりしねぇだろうなオイ!?』
って事でしょ?
分かってるよわたしには。
「ここはオートロックもありますし、管理人さんも常駐ですから安心ですよぉぉ!?」
さぁどうよ? ワンズ君?
「そっか! なら俺の顔は管理人さんに覚えてもらっとかなきゃだな!」
「――え? ワンズく――ん?」
「あ! ごめんなさい! 会社から電話なんでちょっと席外します! ごめんなさいね!」
そそくさと部屋から出て廊下。そしてドアは閉め切らないで聞き耳を立てる訳。
『さっきのどういう意味?』
『え? だって俺ここ気に入ったししょっちゅう来るから!』
バカ。ボケかよワンズ! 違うだろ! アホ!
『あ、あ〜……今のはちょっと違うな』
よっしゃ! いけワンズ! やったれ!
『……その、な? あの……えっと、アレだ。俺以外の男…………ここに入れんなよ』
『――――うん! 分かった! ワンズ君しか入れない!』
GOOD! グッッッッドだワンズ!
こうしてわたしは今日も契約を勝ち得た訳。
けどホント面倒くせぇんだよなぁ十代。
あーわたしも彼ピ欲し。
春。内見。恋心。 [バキコとワンズ君②] ハマハマ @hamahamanji
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