その2! 大きいハコがあるよ!
「こちら、エントランスです~ 自転車もこちらにおけますよ~」
三人に見えやすいように
チカ、アサ、レイの三人は思い思いの体制で、エントランスをのぞき込んだ。
「ほんまや。ぎょうさん、あるなぁ」
左手の壁沿いに入居者の自転車が並べられている。
「……オートロック……ぐっど……」
正面はオートロックのドアとプッシュ式電話のようなボタンが並んだ壁であり、オートロックのドアの向こうには階段とエレベーターが見えた。
「わぁ、大きいハコがあるよ!」
右手の壁沿いには入り口の方に大きな箱が二つと、奥に各居室の郵便受けが並んでいる。快哉を上げて、チカが物珍しそうに近づいていく。
「あ、あかんで! チカちー!」
「はえ?」
大きな箱には何が入っているのかな? と開けようとするチカをアサが制した。
「……それは、欲張りおじいさんの大きいつづら……開けると……恐ろしいこと……起こる……」
「あはー、さすがの私でも、そんなウソには引っ掛からないよ~」
「……恐ろしいこと、起こる……舌切り雀さんの呪い……」
「……ウソ……だよね……?」
レイの迫真の演技にチカが涙目で箱を開けようとした手を引っ込める。アホ毛がプルプルしていた。
「その辺にしときや~ レイ~」
「……ぐわー……」
見かねたアサがレイを突っつく。レイはオーバーにわき腹を抑えてうずくまった。
「……ごめんて……」
「あははは」
ポケットから白旗を上げてうずくまるレイの手をアサがとって立たせる。
「それで。 なんでアサちゃんは私を止めたの?」
「……むにゅー」
からかわれた仕返しにレイのほっぺをぷにぷにしながらチカが尋ねる。
「これはな、宅配ボックスや~。 最近よう聞くやろ? 入居してる人のもん入ってたら、勝手に開けたらあかんからな」
「おー!」
「……なるほど」
アサが自信満々に胸を張る。ブレザーの
「……あの~、これ、ダストボックスです~」
その横で、背を丸めながら、知世はゆっくりと手を挙げて困り眉で訂正する。
「あー、えー、あー」
「……よしよし……」
思考停止して、しゅわしゅわと小さくなったアサに対し、レイは即座にヨシヨシの構えに入った。
「
チカがアホ毛を「?」にして、知世に尋ねる。
小さくなっているアサを、レイと一緒になってなだめようとしようかとおろおろしていた知世だったが、チカの問いに背筋を伸ばして対応する。
「ダストボックスは、ごみの回収ボックスです~。こちらの物件では、袋に入っていれば、だいたいのものは回収してもらえますよ~」
「ほえ~ じゃあ、電池とかも?」
「ええと~ 確認しますね~」
知世が手に持ったタブレットを、スワイプして、1枚のPDFを開く。
そこには廃棄できるもの、できないもの、連絡を必要とするものが、かわいいイラスト付きでまとめられていた。
「はい~ 乾電池は大丈夫ですね~」
知世の細い指が『廃棄できるもの』の中にある乾電池を指し示す。
「せやったら、電池の処分に困ってる会社さんから処分料とって」
「……ここで捨てれば……」
「「丸儲け!!」」
いつの間にか、復活していたアサとレイが声をはもらせる。
「それはご遠慮いただけますか~ お客様~」
アサとレイはゴゴゴゴゴという地響きを聞いた。確かに聞いた。
震えて抱き合うアサとレイに、チカは頭に「?」を3つ浮かべる。
「廃棄物処理法違反ですからね~ だ~め~で~す~よ~」
「「はいぃぃいいいい 冗談ですぅ~~~」」
アサとレイは抱き合いながらその場に崩れ落ちる。
冗談でもこの先輩は怒らせてはいけない。
二人は、新会員との初内見に浮かれて、不用意な冗談を言ったことを激しく後悔した。
「エントランスはもうよいですか~? それでは中へとご案内します~」
この話は終わりと、知世はポンと手をたたいた。
さっと取り出した鍵でオートロックのドアを開けると、三人を招き入れる。
「アサちゃん、レイちゃん、どうしたの?」
「ちょっと、腰、抜けた……」
「……背筋、まだ、寒い……」
震えるアサとレイを気遣いながら、チカもオートロックの扉を抜け、エレベーターの前へと進んだ。
知世が入ってすぐエレベーターのボタンを押していたので、待っていたかのように扉が開く。
「では、お部屋にご案内しますね~」
ないけんの三人と
ないけん! 黒猫夜 @kuronekonight
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