ないけん!
黒猫夜
1けんめ! 床神野マンション 7階 駅から5分
その1! 駅から近い!
「は~い。こちら、
やけに間延びした声で、栗色ゆるふわパーマのスーツの女性が、バスガイドよろしく片手をあげて、後ろをついてきた三人の少女らに物件への到着を告げた。
「ふぉおお! 到着だよ! アサちゃん! レイちゃん!」
ピンクのまとめたロングヘアをしっぽのように振って振り返りながら、先頭を歩いていた少女が、ほかの二人に興奮気味に呼びかける。
元気すぎる子犬のような印象を与える彼女の名前は
「どうどう。おちつけおちつけ~。チカちーは、内見初めてやもんな~。」
黒髪おさげ眼鏡の少女が今にも踊り出しそうなチカの頭を撫でて落ち着かせる。
チカのアホ毛がへにゃっとなって、すぐにうれしそうなリズムで左右に振れ始めた。
眼鏡の彼女の名前は
近葉野女子高内見研究会会長である。――といっても、会員はここにいる三人しかいないが。
「しっかし、ほんまに、駅から近いなぁ。5分言うてたけど、3分かからんのちゃうか?」
チカの頭をワシワシ撫でながら、アサは隣でスマホのストップウォッチアプリとにらめっこしているボサボサ青髪の相棒を見やった。
「……駅からジャスト3分。5分ひく3分は2分。時給1000円として、1000円かける2分わる60分。約33円の儲け……」
びしっと親指を立てながら、三人目の少女は3が並ぶスマホの電卓アプリをアサに見せつける。
スマホを高速で操る彼女の名前は
「え、じゃあ、1か月住んだら……33円が30日だから???」
「2分が30日分で60分なので~、ちょうど時給と同じになりますよ~、お客様~」
三人を先導していたゆるふわパーマの女性が、アホ毛を「?」にして煙を吹いているチカに助け舟を出す。
母性を感じさせるたたずまいの彼女の名前は
「さすがちせパイセンやねぇ」
「お仕事中は~、鹿島須さんとおよびいただけますか~? お客様~」
ついつい、いつもの呼び方で呼ぶアサを知世がやんわりととがめる。知世も近葉野女子高出身であり、アサやレイとは旧知の仲である。アサはペロリと舌を出して、知世に両手を合わせた。
「おぉぉ! 1か月住んだら、1000円の儲けだってさ!! レイちゃん!」
「……ぐっど……」
はしゃぐチカに、親指を立てて応じるレイ。
「それでは~中にご案内しますね~」
「ないけん」の内見は始まったばかりだ。
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