【KAC20242】パパ上様日記 ~我が家のおうちの内見~

ともはっと

パパ上様はいつだって子供の成長を噛みしめる


「そういや、あのお兄さん、どうしてるんだろう」



 そんな一言をスマホ片手にぼそりと呟いた、私の息子ことセバス。

 そんなセバスは本当に思いついたことをよく口走る輩で、それもどうやら独り言であって、誰かに聞かせるための言葉ではなかったようである。


 だけど。


「……どのお兄さんのことを言っているのかはさっぱりわからんが」


 と、私はその呟きをしっかりと聞き取りしっかりと拾ってしっかりと質問を返してやる。

 これが親ってものである。


「ん? 何の話?」


 だけども、本当に自分が口走っていることさえ気づいていないセバスは、そんな私に無情の一言を投げかけてくる。

 私はそれだけで「こうかは ばつぐんだ!+きゅうしょに あたった!」と心を抉られるわけだけども、そろそろ思春期真っ盛りのセバスのこういう冷たいところにも、「こうかはいまひとつのようだ」くらいにはなってみたいものである。




「いや、お前が言ったんだろうに」

「ん?……ああ、お兄さんの話?」

「そのお兄さんの話」

「ほら、僕が小学生の頃、この家を建ててくれた人のこと」







 ……?

 ………??




 お兄さん????




 いや、あれ、私と同じくらいの歳の人だぞ??




 思い出すは、我が家を建ててくれたセバス曰く、お兄さんこと大工の人。

 とはいえ、当時のセバスからしたらいいお兄さんだったのかもしれない。


 そうか。もう十年近く前の話だから、まだ年齢的には若いからか。つまり私も当時はお兄さんと言われるような歳ということか。……いや、それはないな。


 当時住んでいた場所がほんの少し遠いところにあって、ちょうど小学生に上がったセバスは、学区外からの登校だった。

 新居からの通いであれば、なかなかいい具合の距離の学区ではあるのだけども、当時は朝早くに起きてママチャリをかっ飛ばして(妻のティモシーが)そこから学区内の集まりに向かわせて通わせていたのも懐かしい思い出だ。


 そんなまだ出来上がらない新居。

 その新居を一人で作り続けてくれていた大工さんがいた。

 私やティモシーが学校帰りのセバスをそこで迎え、そこから当時住んでいた自宅へと一緒に帰っていたのだが、時々遅れたり、下校時間が早まって、出来上がり前のその家でセバスは一人待ちぼうけをしていることもあった。

 その時に、大工さんは、セバスの面倒を見てくれていたのだ。

 時には飴ちゃんで懐柔してくれていたり、時には仲良く大工仕事を教え込んでたり。当時は積極的になんでもかんでも気になったら好奇心旺盛に聞くセバスである。かなりうざったかったんだろうなぁとは思うものの、セバスが可愛くて面白くて話すのが楽しくて、将来大工にならないか、と誘ってくれた人だ。


 なかなかいい雰囲気の素晴らしい大工の方だった。

 もちろん、腕も秀逸であったのは間違いない。



「ああ、そういえば……うちのこの家、出来上がった時、間取り含めてあまりにも出来がいいからって、住宅の内見に使わせてくれって企業から言われて数日間内見展示公開してたな」


 ってな具合の、素晴らしい建物を作り上げてくれたのだから。


「今思ったら、あれって、私達が使う家なのに、あたかも誰かに売るために作りましたって感じだったわね」

「ほんとだよ。なんで俺らが資金提供して他の人に渡すんだって話だよ。どこの不動産業だよ」

「そんなんだったからあんたもあんなことあったんだよね」


 いきなり会話に参加してきた妻のティモシーに言われて、はっと思い出す。


 そう、そうだ。

 あの時、出来がいい家だと内見展示に使われて、見に来ている人はいるのかなってこっそり見に行ったときだ。


 当時のセバスや娘のチェジュンを同時搭載できる、我が愛機ママチャリことママチャリを自由自在に駆使していた私が、とんでもない勢いで我が家の内見者を見に行ったとき、すっごい企業側の社員にじろじろと見られた。

 家の持ち主が、「なんて素晴らしい家なんだ」と庭先の大きな窓から我が家の内部を見ていただけである。なのに借りてる企業の社員から、「何をしているんですか」とあからさまに嫌そうな顔をされたのだ。



 なんだこいつら、と思いながら、凄い不愉快な思いをして帰ったことを思い出す。



「内見の展示が終わって、なかなかの盛況だったと言われてほくほく顔してたよね、営業さん」

「まあ、だけどさ、ありゃさすがにねぇだろ」

「ああ、あれね」


 展示も終わり、さあ、我が家の受け渡し、と言うときに、腕のいい大工とともに我が家の意向をしっかりと家に反映してくれた営業さん。その営業さんが、鍵を渡すときに、言ったことだ。



『この辺りで、変なおじさんが、じろじろとこの家見ていたらしくて。いい家だからこそかもしれませんが、一応気を付けてくださいね』



 と、注意を促してきた。



「それ、俺だっての」


 内見に使わせてあげた家の主人、しかも俺達家族が入居する前に先に入らせてあげてるのに、不審者呼ばわりとは。

 今にして思っても、ふてぇやろうどもだぜ。




「うぉぉっ! 激アツ!」




 そんな昔話を話している私とティモシーを無視し、こんな話はどうでもいい、興味がないとゲームに没頭するセバスを見て。







 今日も。



 我が家は平和だ。




 そんなことを思う、不審者扱いの、パパ上であった。

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