渚にて
野村絽麻子
ボクと黒猫と寄居虫
昼間訪れた海辺の砂浜で
「大変! これじゃ暮らし難いだろう?」
治るまで家に来るかい? と彼に尋ねれば、しばらく考えるようにゆらゆらと鈍色の巻貝を震わせて、それから、ボクの手の平にそっと乗り込んだ。
*
「ねぇ、オペラ。ハーミット・クラブはお引越しをするそうだよ」
ボクは眺めていた図鑑の中に興味深い記述を見つけて、透明なケースを熱心に見つめている黒猫に声をかける。黒猫は、振り返ると小声で「ニ、」と短く鳴いた。
標本棚を見る。海岸で拾ってきた巻貝が並んでいる中から、いくつかを取り出して彼に見せてみた。すると彼は、つぶらな黒曜石の瞳をのそりのそりと貝殻の中に出し入れしては、のんびりと次の巻貝を覗き込む。
どうやらなかなか彼のお眼鏡に適うものは出てこない。
「もしかして、巻貝じゃなくても良いのかしら」
ボクは大切なコレクションの入った引き出しを開けてみる。
空になったインク瓶、理科教室で貰った滴瓶、美しいキャンディの缶、お祭り用ランタンの蠟燭の空きケース、アンティークの香水瓶。
「さぁさぁ、お気に召すものは?」
*
そうするとボクは、ピクニック・ブランケットを広げて、彼をご招待することになる。一人と二匹で、バタ付き
渚にて 野村絽麻子 @an_and_coffee
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