式神さん出番です

船越麻央

 冬月時雨の巻

 わたしは冬月時雨。白金学院大学文学部に入学したばかりです。付属高校からの推薦入学なので、知った顔が多く心強いです。

 ただ……ひとつ残念なのは、一番いっしょにいたい男子が他大学に行ってしまったこと。


 北風響君です。


 高校一年生の時からずっと片想いでした。二年生から同じクラスになって、ある事件がきっかけでハードルをひとつ乗り越えたんですけど……。


 わたしとしては北風君のカノジョにして欲しいんです。でもアノ事件の影響もあってなかなかうまくいかなくて。友達以上恋人未満の関係と言うのかな。


 それに北風君けっこう女子にモテモテなんです。下級生の女のコにまで人気があって……。


「なに北風ったらまた浮気? まったくもう冬月さんというひとが居ながらナニをやってんのかしら!」


 自分のことのように怒ってくれていたのが峯雲深雪さん。北風君とは一年生から同じクラスの女子ですけど、とっても気っ風が良くてわたしとは正反対の性格です。何かとわたし達を応援してくれてました。


 その峯雲深雪さんも若百合女子大学に進学してしまいました。


 それともうひとつ。わたしと北風響君の関係を何とかしようとしているヒトがいます。


 ムラサキシキブさん。


 【紫式部】ではなく【村崎式部】さんです。高校の卒業式直前にわたしと北風君の前に姿を現した元死神。正確には改心(?)して現在天霧吹雪先生の式神だそうです。


 天霧吹雪先生は世界史の担当教師でした。アノ事件の時わたしと北風君を救ってくれた金髪碧眼の超美女です。


 その天霧先生が突然わたしと北風君の前に姿を見せたんです。アノ事件の後学校を辞めていた先生は相変わらずの美貌でした。

 そして先生はわたし達に村崎式部さんを引き合わせたんです。


「あなた達にはハッピーエンドになってもらわないと困る。ワタシの式神、村崎式部が手伝うから」


 なんでもバッドエンドばかりでストレスが溜まっているとか、いないとか。そ、それで、き、北風君と……む、結ばれて欲しいとか。


 いくらなんでも天霧先生、不適切にもほどがあります。村崎式部さんはやる気満々だし。そりゃわたしだって北風君とそうなったらうれしいことはうれしいけど……。北風君もまんざらでもないみたいです。


 それからというもの村崎式部さん、なんだかんだとちょっかいを出して来るんです。高校の卒業式の後わたしと北風君を二人だけにしようとしたり、勝手にデートを設定したり。


「二人とも少しは協力してくださよ~、上手くいかないと吹雪さんに𠮟られるんですから~」


 村崎式部さんちょっと情けないですよね。ホントに元死神なのかしら。なんでも、ドジを踏んで死神をクビになったところを天霧先生に拾われて式神になったらしいのですが。


「冬月さん、大学は別々になったけど、その、えーと、頑張ろうね」

「は、はい……あの……東京産業大学って女の子多いの?」

「いや、そんなことはないと思うけど……」

「ハハハ、この式神、村崎式部が目を光らせてますからご心配なく!」


 そっちの方がよほど心配です。ちなみに東京産業大学とは北風君の進学先。略してトーサン大として親しまれてます。


 そしてわたしの大学生活が始まりました。高校と大学のキャンパスは同じ敷地内なので勝手がわかっていてラクです。北風君はいないけど……週末には会うことになっています。もっとも式神さんが強引に設定しているんですけどね。


 その日は履修登録しようか迷っている科目の授業を受けていました。授業前、大教室の前の方に座って待っていると、ひとりの男子が話しかけてきました。


「やあ冬月さん、冬月時雨さんだよね。高校で一緒だった野分でーす。ここに座ってもいいかな? この科目履修するの? 単位とるのカンタンらしいよ」


 その男子、野分楓君でした。白金学院高校ではずっとクラスは違ってました。長身で色白、ウエーブのかかった髪に甘いマスク。北風君とはタイプの違うイケメン、プレイボーイで有名でした。


「……野分君……ど、どうぞ。この科目どうしようか迷っているんです。選択科目だし……」

「そうだよねー、まだ履修届け出すまで間があるからね。イロイロ情報を集めているから何でも聞いて~」

「それはどうも……ありがとう」


 まったく調子のいいヒト。さすが有名なプレイボーイ、女のコを泣かせる悪いヤツです。アブナイアブナイ。わたしと同じ文学部に進学したのは知っていましたけど、あまり大学には来ていないようでした。


「ところで北風クンは元気? たしか彼はトーサン大に行ったんだよね? たまには会ってるの?」


 まったく大きなお世話です。わたしが答えようとしたところで教授が教室に入ってきて授業が始まりました。さすがに野分君おとなしくなってわたしはホッとしました。今日は90分間がとても長く感じられました。


 ようやく授業が終わって、教室の外に出ると野分君が追いかけて来たんです。


「冬月さーん、次はどうするの? 時間が空くのだったらボクと……」


 野分君そこまで言うとビクッとして立ち止まってしまいました。なぜならわたしの隣に例の式神、村崎式部さんが立っていたから……。


「冬月時雨さんに何か用かな?」


 長身瘦躯、青白い顔に黒髪、黒いスーツに黒ネクタイ、おまけに今日は真っ赤な瞳。その彼がドスのきいた低い声で……グッと野分君を睨みつけたんです。いつもと違う凄い迫力。ちょっとコワイ。


「だ、誰だあんたは……」


「私は冬月時雨さんのボディーガード。野分楓クンか。フーン、時雨さんに話があるのなら私が聞こうじゃないか。ん?」


 村崎式部さんそう凄むと野分君の方に一歩踏み出したました。完全に戦闘モード。


「わ、わわわ、ふ、冬月さん、ま、またね」


 野分君は震えあがって逃げて行きました。それにしても村崎式部さん……さすが元死神、その凄味にわたしも圧倒されました。


「ハハハ、まったく油断もスキもあったもんじゃないですね。冬月さん気をつけてください」


 いつもの陽気な式神に戻った村崎式部さん。その瞳はいつの間にか真っ赤から黒くなっていました。

 この人意外に頼りになるのかしら。それにしてもキャンパス内で男子学生を脅すなんて。不適切にもほどがありますよ、ホント。


 わたし冬月時雨はキャンパスライフを満喫したいと思っています。北風響君、村崎式部さん、よろしくお願いしますね。

 



 


 

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