内見終了とその後


「ほぉ、察しがいいな。褒美に私の正体を死に土産に教えてやろう。私は、ギルドA級探索者にして、ビスタンチ王国近衛騎士副団長――メイナリンク」


 私はそう名乗ると、ナイフを投げ捨て、血を浴びたマントもスルリと床に脱ぎ捨てながら、男達にゆっくり一歩ずつ近付くと、男達に動揺が広がるのが分かった。


 いま着ている服は、ギルマスが用意した王都で流行りの街娘風のものだが、どうにも胸が強調された服で心もとない。しかも、スカートなどと……。

 

 まったく、変態ピクルスめ、こんな汚れ仕事を私に押しつけるとは。この恥ずかしい服の件も含めて、帰ったらとっちめてやる!


「なっ!? なんだと!? あ、あの……王国最強の……び、び、び……」

「……び、美巨乳メイナリン……」


 男達のイヤらしい視線を胸にひしひしと感じながら、男達の言葉を最後まで聞くことはなかった。

 ベルトに差し込んだ赤鞘から刹那に抜いた剣身は、恐らく男達には見えなかっただろう。


 血振りをした後、転がる男達の服で剣を拭い、辺りを見渡し残りの爺さんを探すと、居た。


「ひっ、ひぃぃぃっ! お、お、お、お助けでげすぅぅぅっ! な、な、何でも話すでげすっ、だ、だから、い、い、命だけはぁぁぁっ」


 不動産屋の爺さんは、入って来たドアの横で、腰を抜かしブルブル震えながら、必死に命乞いをしている。


「では、訊こう。新婚若夫婦がお前の店に家探しの相談をしに行ったきり、帰ってこないから調査して欲しいと、親族からギルドに依頼があってな。彼らはどこへ行った?」


 剣先を爺さんの鼻先に突きつけると、爺さんは蒼ざめて奥歯をガタガタさせた。


「ひっ! 言うでげすっ、言うでげす! だ、だ、だから、命だけは……ひっ!?」


 まどろっこしいので、剣先で爺さんの鼻の頭をつついて血がわずかにしたたると、ペラペラと訊いてない事まで素直に話してくれた。




「……鬼畜どもめ」

「ぜ、全部話したでげすっ。ワシは闇不動産屋で、ただ内見の客を案内してただけでげすっ。ワシも、こ奴らに脅されて、仕方なくでさぁね、ひひひ……」


 爺さんは、ヘラヘラと下卑た卑屈な笑いをしながらも、チラチラと濁った視線が私の胸に向いていて、とても反省しているとは思えなかった。

 少しお仕置きが必要とみえる。




 ――ギルドマスター執務室――


「ご苦労じゃったな! さすがメイナたん。いやぁ、みごと闇不動産屋の悪事を暴いてくれるとは。よくやってくれた! わっはっはっ」


 ギルマスの執務室にノックをして入ると、汚れ仕事を押しつけたギルマスであるピクルスが席を立ち、屈託のない笑顔でハグを求めて歩み寄ってきた。

 だがしかし、その笑顔にむかついた私は、無意識にピクルスの頬を思いっきり殴っていた。

 その結果、小柄なピクルスは、その場で風に舞う落ち葉の様に回転し、パタリと倒れ床を這う事となった。


「メイナたん……ひどい……」

「あっ……すまん、つい、無性にむかついて手が出てしまった。ふふっ」




 ――王都のとある広場――


 私があの事件をギルドに報告した数日後、広場に縄で拘束された闇不動産屋の爺さんが、衛兵に連れられて来るのが見えた。

 顔は腫れあがって、元の顔がよく思い出せないが、間違いなくあの悪徳闇不動産屋兼盗賊の爺さんだ。

 奴はビクビクと辺りを見渡し、私の存在に気付くと「ひゃっ」と悲鳴を漏らし、逃げ出そうとしたところ、衛兵に押さえつけられて苦しそうに藻掻いていた。


 その後、奴は被害者の親族十数人に囲まれると、広場全体に悲鳴が響き渡った。


 私はその様子を確認すると、銀色の鎧に陽射しを反射させ、愛するジーナ殿下の待つ王城へと歩みを進めた。




 ――閑話――


 途中、後ろから大きな声と、走ってくる騒がしい音が聞こえてきた。


「メイナ様ぁぁぁっ! どこ行ってたんですかぁっ! ジーナ殿下が遅いっておかんむりですよぉぉぉっ」

「なんだ、ルーチェか。その辺でお茶でもしていくか?」


「えっ!? 行きます! 行きます! すぐ行きましょう! さあさあっ!」

「冗談だ」


「ふぇぇぇぇぇぇぇんっ、メイナ様のいじわるぅぅぅっ」

「ふふふふふ」




 了


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異世界住宅の内見は危険な香り 八万 @itou999

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